「忘れ物はないか?」
『…ないよ』
「ハンカチは?」
『あるってばっ。さっきポケットに入れたの見たでしょ…』
「今日も体育が一限目からだぞ。体操着は…」
『はいはい、だからっ持ってるってば!……もうっ、柳くんってばそんな事ばっかり言ってると本当にお母さんになっちゃうからね!心配しなくても忘れ物はないから早く行こうよっ』
ぐいぐい
「…押すな」
ご飯を食べ終わってからちょうど出る時間になったので、お皿を片付けてから直で玄関に向かったのだが…、なぜか玄関前で待ち構えていた柳くんは、今と同じような会話をしつこく三度ほどループした。
いい加減家から出たい私は、柳くんをぐいぐいと外に追い出しながら返事をする。
「…そうは言うが、いつもお前何か忘れてくるだろう。昨日は昼間財布を忘れたからと言って俺から120円借りたのを忘れたのか?」
『すみません。私が悪かったです』
「わかればいい。よし、行くぞ」
『あ、ちょっと待ってよ!ちゃんと靴履いてないだけどっ』
やっと納得したらしい柳くんは、先に玄関を出て階段の方に向かう。
私は中途半端に履いていた靴を直してから、先に行く柳くんを追いかけた。
『柳くんって心配性すぎ。そんなんで良く生きていけたよ今まで』
「どういう意味だそれは。だいたいな、こんなに心配するのはお前の……………ん?」
『今日も心配だから私と登校しようと思ったんでしょ。本当柳くんって考え方がお母さんだよね』
「……」『…あり?柳くん?』
急に返事がなくなったので気になって覗き込んでみる。
『おーい、どうしたの。歩きながら寝ちゃったー?』
「…歩きながら寝る奴がどこにいる。少し考え事をしていただけだ」
『だっていつも寝てんのか起きてんのかわからない目してるし。ちゃんと開けてるとこ…』
「…」
『ご、ごめんなさい。やっぱり開眼は勘弁してください。怖いから』
「怖いってなんだ。別に目を開けたからといって石になったりなどしない」
『そりゃあしないだろうけど…怖いもん』
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