六
樹せんぱいは、とてもやさしいです。
でも、とっても嘘つきさんです。
あの壷はあの壷じゃなくて、ちがうはちがくない。
嘘つきは悪い、ってお母さんはいってたけれど、樹せんぱいはすごくいい人だと思います。
わからないところは教えてくれるし、ときどき頭を撫でてほめてくれるときもあります。
兵助せんぱいは樹せんぱいのいってることがすぐ分かるけれど、まだぼくは考えないとだめです。
だから、ぼくも樹せんぱいの言ってることがすぐわかるようにがんばります。
やさしい、せんぱい。
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樹先輩は嘘つきだ。
初めて会ったときから、そうだった。
“5年生には、嘘つきがいる。”
そんな情報があったから、樹先輩と会ったとき、ああこの人か。とわかった。
嘘つきな人間には、ろくな人間がいない。
そう、思ってたから、最初は警戒していた。
でも、接すれば接するほど、あべこべな態度で。
嫌い。と言いながら笑顔。
あべこべだ。
よくわからない、変な先輩。
悪い人ではない。
でも、嘘つきなのは止めてください、先輩。
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樹くんは不思議な人だ。
樹くんは僕と同い年だけど、先輩。
火薬委員となって、初めて会った時。
「古い委員の人だね。僕は委員長の鈴代樹だよ。宜しくしないからね」
いきなり嫌われた!?と思って焦った。
でも、にこにこと笑って握手をした様子がとても好意的で、なんだかちぐはぐな人だった。
後で三郎次くんに聞いたところ、樹先輩は、嘘つきなんです。と言われた。
まったく、困ったものですよね。
続けた言葉は言ってる事とは裏腹に、けして樹くんを嫌ってるわけじゃないんだと分かるもので。
樹くんは、嘘つき。
でも、嘘なのは言葉だけで、行動は普通。
むしろ、とても優しい。
僕が滑って大事な火薬が入った壷を割ってしまっても、
「タカまるくんは、大丈夫じゃないね」
と真っ先に僕の身を案じてくれた。
樹くんは、嘘つきで、不思議な人で、でも、とっても優しい。
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「君が、用具委員?」
そういって近づいてきた青色。それは2年生の色で。
「えっと、違い、ます。火薬委員、です」
1年と2年は仲が悪い(らしい)ので、少しおどおどしながら。
「そっか。あのね、今日委員会が開かれないんだ。一人で行こうかと思って」
自分に手を差し出してくるその人の行動と、言われた言葉と合わせて困惑しながら。
「僕は、鈴代樹だよ。宜しくしないよ」
そう言って綺麗に笑ったその笑顔に。
この人は違うことを言ってるだけなんだ、と何故かわかって。
わかったら、もう混乱は無かった。
「久々知兵助、です」
「へーすけくん」
綺麗な、ひと。
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