その後
「名前って、変わらないよね」

六年は組の時友四郎兵衛が言った言葉に、私はぱちくりとした。

「変わらない?」

突然の言葉だった。前振りも全くなく、これまでの会話の続きのように四郎兵衛はそんなことをぽつりと呟いたのだった。

「うん。えっと、なんて言うのかなあ。勿論、体が大きくなってないとかじゃなくてね、心理的に、かなあ」

微妙にセクハラ臭いことを言っても、そう聞こえないのは四郎兵衛の美徳だと思う。

「名前、二年生の頃からなにも変わってないような気がする」



******



正解、だ。
実のところ、四郎兵衛が言っていたことは的外れじゃない。むしろどんぴしゃである。これだからこの友人は怖い。

私、名前は初恋をずるずると引き摺っている。

二年生の頃、幼い私は恋をした。
相手は六年生で、当然、私のことなど可愛い妹ぐらいにしか捉えていなかっただろう。
告白してもきっと憧れやら尊敬やらの気持ちと混同しているだけだ、と諭されただろう。
それに、その人には彼女がいた。
可愛くて美しい、私には到底敵わないような人だった。
私の幼い恋は、始まる前から終わっていたようなものだった。

だけれど、諦めれなくて、執着して。

結局、その人が卒業して大分たった今も、私は初恋を抱えたままなのだった。

約、四年と半年の間、ずっと。

ずるずると。往生際悪く。

あの人と同じ、最上級生になった今も。


私は、六年生になっていた。






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