恋をする
どうやら久々知兵助くんは本気でわたしと付き合っていたらしい。
そりゃあ、兵助くんのことだから遊びでってことはないと思ってたけど、まさか本気とは。
わたしの私見だと、そういうのはあんま興味ない人だと思ったんだけどなあ。
兵助くんが本気だとわかった今でも、わたしは正直どうしたらいいかわからないでいる。
恋とか愛とか、気にも留めないで生きてきたからなあ、わたし。
世間一般的に言う"好き"とやらがどんなものかは、うすぼんやりとはわかっているつもり。
ところがどっこいそれがわたし自身のことで当てはめれるかといえば、そうでもない。
大まかで言う"好き"にならきっと兵助くんは当てはまっていると思うのだが、さらに細かい括りの恋愛感情であるかと問われれば、わからない。

「だからどんなもんかな、って思ってさ」

いつも一緒にいる千代ちゃん(わたしはこの名前が好きだけど、千代ちゃんは古臭いから嫌だと言う)に聞いてみた。

「…唐突だねチミは。というか久々知くんカワイソス」

(´・ω・`)って感じな表情の千代ちゃん。
ちなみに(´・ω・`)をどう発音しているかはわからない。だって日本語じゃないよこれ。

「…んー。好き、って感情なんて理屈じゃないしねー。名前の場合余計だし。」

ぶつぶつと一人言を言うようにして、千代ちゃんは難しい顔で唸る。

「名前さ、久々知くんのこと嫌いじゃないんでしょ?」

小首を傾げた千代ちゃんに、ほぼ断定口調で問われた。
答えは考えなくても口からすぐ出た。

「うん」

嫌いじゃない。うん、それは確実だ。
ただし、恋はしてない。これも確実。

「なら、それでいいんじゃない」

そう言って、にこりと千代ちゃんは笑った。…そっか。
わたしらしくもなく、ごちゃごちゃと考えていたけれど、こういうのの答えって、案外結構シンプルなものなのかもしれない。






「兵助くん」

いつの間にかいつものように、と言えるくらい当たり前のことになった、兵助くんと一緒の帰り道。

「ん?」

恋人らしく手繋ぎとかはしていなかった。てか、したことないな。考えてみれば。

「わたしさ、兵助くんのこと恋愛の意味で好きかと言われたらきっとそうじゃないと思う」

…あれ、今兵助くんがガーンって擬態語が見えるくらい露骨にへこんだ。
あー…なんか悪いことした気分。言い方が悪かったかなぁ…。でもでも、話はこれからなんだよ。

「でもね、愛情ってきっと長さなんだよ。一緒に居た長さ」

世の中では違うかもしれないけど。でもこれは世間の一般論じゃないので。
わたしと兵助くんの、問題なのだ。

「長く一緒に居れば居るほど、愛着がわいていくと思うんだ」

一緒に居ない人を愛せって言われても、無理な話だと思う。同じ時間を共有しなければしないほど、知らない"他人"になっていくというのに、それでも愛し続けるなんて、わたしには無理だ。

「だからね、」

わたしは、兵助くんが好きだ。友達的な意味で。

「一緒に居よう。これからも」

ずっと側に居れば、わたしは兵助くんのことをもっともっと好きになるだろう。そして、愛情的な意味で好きになるだろう。
これは全部予測にしか過ぎないけど。

まあ、

「え、と、あの、」

真っ赤になってあたふたして、それからはっとしたように佇まいを直してじっとわたしを見つめて一言、

「絶対、離さないから」

そう言ってわたしを抱き締める兵助くんを見ていると、恋するようになるのも時間の問題だと思うのだ。







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