助けて貰う
「兵助に彼女ができたって言うから、どんなもんかと思ったけど普通だなー。
誘われてホイホイ付いてくるし。
もしかしてそんなナリして、かなりの尻軽?うっわーヒくわー」
ぱちり、ぱちり。
………。
………。
………。
「え、もしかして本当だったの」
「…は?」
「罰ゲームかなんかかと思ってたんだけど、違うの?」
てっきりわたしはゲームかなんかで負けてソレの罰ゲームとして〇〇と何週間付き合って来いよみたいな話かと思ってたんだけれど。
考えてみて、そのくらいしか理由が見つからなかったから、そうなのかなって思ったのだけど。
あれー?どうなってるんだろう。
「…こりゃ、兵助が悶々とするわけだ」
「兵助くんが悶々とする?」
そのままおうむ返ししたわたしに、鉢屋くんは呆れたようにため息を吐いた。
「兵助は本気だってことだよ」
…………。
「はあ」
つい気の無い返事をしてしまった。
いや、わたしも特別馬鹿みたいに鈍いわけじゃないから、鉢屋くんの言ったことの意味は分かったけれど、それを踏まえての感想。
なんで兵助くん、わたしのこと好きなんだろう。
始めのころ考えてた疑問に辿り着く。
こういうのは理屈じゃないと言うけれど、理屈で考えなきゃわけがわからないし。考えるんじゃない、感じるんだ、みたいなこととか言われても、わからない。考えても感じても駄目だったらどうするのだろう。ああ、わたしにも女のカンとやらが欲しい。
「…ていうかさ、名字さんこの状況で随分余裕だな」
この状況。イコール鉢屋くんがわたしを押し倒している状況?
いや、まあ。
「そろそろかなって」
「は?」
わたしがそう言った瞬間、扉が乱暴に開かれる音がして、わたしの上にいた鉢屋くんがなにかに蹴飛ばされたように横へごろごろと転がっていった。
あっという間の出来事だった。
あっという間すぎて、ぼけーっとしばらく呆けてしまった。
そんなあっという間の出来事をした人物、つまりは兵助くんのことなのだけど、兵助くんはぜーはーとしていて、かなり疲れているみたいだった。
「…名字さん、大丈夫?」
兵助くんが、わたしに向かって手を出す。掴まって、ということだろうから、兵助くんの手を掴む。
大分疲れているはずの兵助くんだけど、難無くわたしを立ち上がらせてくれた。
「えっと、ありがとう」
助かったので、ちゃんとお礼を言った。対人関係の基本だね。
パンパン、とスカートを払う。
兵助くんは少しほほえんで、それから転がっていった鉢屋くんの方をぎろり、と睨む。
「…三郎、何してるんだ」
ごろごろと転がっていった時に頭を打ったのか、鉢屋くんは痛そうに頭を押さえながら起き上がった。
「いってー…。容赦ねぇな、お前」
「…何してるんだ、って聞いてるんだけど」
「べっつにー?ただ話してただけだって。それの延長上だよエンチョージョー」
「…あ?」
「ちょ、兵助マジ切れ顔やめろし。名字さんには見せられないような顔になってるぞー?」
どんな顔だろ。逆に見てみたいなあ。
ていうかお昼休みなのにまだお昼ご飯食べてないや。まだ時間はあるけど、お腹減ったなー。
兵助くんはもう食べたんだろうか。
「この件は雷蔵に報告させてもらう」
「そんな殺生な!?やめて!謝るからさ、ホント!」
「兵助くんはお昼食べた?」
「「…………」」
そう言うと、なんとも言えない顔で二人はわたしを見た。
…しまった、空気読んでない発言だったか。いや、いい加減お腹すいたなって思ってたからつい。
「うん…。なんていうか、その、…兵助、ガンバ」
痛ましーい顔をしながら去っていった鉢屋くん。…一体、鉢屋くんはなにがしたかったんだろう。ご飯も結局食べてないし。ちょっとお喋りしただけだよね。
この場に残ったのは、わたしと兵助くんだけになってしまったわけだけど、…あ、そうか、閃いた。
「兵助くん」
「…な、なに?」
「ご飯、一緒に食べません?」
「!…うん、食べよう」
兵助くんは嬉しそうに笑っていたから、わたしの閃きはどうやら正解っぽかったらしい。
「ところでお弁当は?」
「あ」
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