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愛しいとか恋しいとか、それは単に感情の一部であって、全てではないのだと。人は様々な感情を以て人形を形成するなら、愛に生きるというのは可笑しいのではないか。一つだけで生きていっているなんてとんだ勘違い。
"好き"だけで人格ができているのなら、何故泣くのか。怒るのか。腹が減っても、痛くても、苦しくても、そんなの感じないんだろう?

愛だけが真実と謂うのなら、証拠を見せろ。私を納得、させてよ。


愛だけで生きてみせなよ。





***




「わたしだって…!あなたなんかが来る前からずっと、一緒に居たのにっ…!」

憎々しげに此方を睨む少女。目にも鮮やかな桃色を纏っている。

「なんで、あなたなんかが…わたしの居場所を奪って、のうのうと生きてるの!?」

まだかろうじて理性は残っているのか、殺気はじわりとしか滲んでいない、が時間の問題だろう。

少女は全身から、"この女を殺したい"と叫んでいた。
この少女が言っていたことで、大体の事態の把握はできた。

近頃、これまで遠巻きに私を見ていた連中が近付いてくるようになった。
多分、立花くんが近寄るようになったからだろう。
近付いて来るようになったのはほとんどが上級生で、巧いとこ下級生を近付けさせないとするとこが見事に"上級生"だった。歳上として見事だな、とほほえましく思った覚えがある。

それを、この少女は間違って認識してしまったのだろう。
或いは、好意を寄せている人と私が並んでいるのを見てそこだけで話を飛躍させてしまった、とか。
どの時代でも、恋する乙女猪突猛進。後は若いお二人で、と退出したい。

「あなたは盲目的だね」

にこにこと見守りたくも、この少女は明らかに私を殺る気だ。
なまじ現代なら無視とか虐めが手段なのだが、ここにいる少女は邪魔なものを排除できる手腕を持っているだけに。

「本当に、あなたくの一の卵?そんなに自分の感情をだだ漏れにさせて、あなたは今まで何を習ってきたの?」

苛々のまま、私情を抑えることができずに人を殺すのは、忍失格だ。
忍でなくともそうだが、人は大人になるにつれて自制心を覚えていかなくてはならない。
我慢すること。
そうしないと、上手く生きていくことができないから。


気付けば、目の前に苛烈な憎悪と嫉妬で瞳を溢れさせたくのたまの、少女。
激情を滲ませた姿。
その気配を感じることもできなかった。

「ぐ、」

腹部に襲う圧迫感と痛み。

「ばかだ、なぁ」

倒れていく体を止めれは、しない。

「あなたの想いって、とても、貧弱、だね」

浮かぶのは、走馬灯じゃなくて、愛しい施設の皆。

「愛だとか、恋だとか、一人よがりで、」


「あなたは、私の思いなんて、無視、なんだね」


「あのね、私」




「ずっと、かえりたかったんだよ」





"おねえちゃんは、ずっとわたしのおねえちゃんでいてね"

うん。当たり前だよ、紗枝。


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