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「おねえちゃんは、わたしのおねえちゃんだよね」
かつて私の妹が、唐突にこんなことを言い出したことがある。
「わたし、おかあさんとおとうさんいないから。いろいろ、言われるの。」
よし、潰す。手始めにそいつら住所を調べて一生表に出せないような顔にしてやる、と私はひっそり決意した。
「わたし、おかあさんとおとうさんがいてなにがいいのかわかんない。なにが悲しいのかわかんない。わかんない。だって、いないもん。」
悲観にくれている顔では、なかった。紗枝は、毅然として前を向いている。
「でも、おねえちゃんはいるから、だから、おねえちゃんがいないと悲しいし、さみしい。だから、おねえちゃんはずっとわたしのおねえちゃんでいてね。わたしとずっといっしょにいてね」
当たり前だよ。私が紗枝を置いてどっか行くわけ、ない。
私だって、紗枝が居ないと駄目なんだから。
***
「名前。茶」
そう、偉そうに要求してくる立花仙蔵くん。
よくわからないが、あれから立花仙蔵くんは私に構ってくるようになった。
感情の無い目で私を静かに観察していた頃と、やり方を変えることにしたのだろうか。至極愉快そうに笑ってはいるが、油断や隙は欠片もない。まあ、忍者とは本来そういうものなのだろうが。
「あのね、私は事務員なの。お茶汲み係じゃないんだよ」
そう言っても結局はお茶を淹れてるのだが。一応、建前とかあるので。私が何でも屋だと思って貰うと困る。
今は委員会の時間なので、立花くんにお茶を汲めと言われたら委員の子全員に配ることになる。
作法委員会なんだから自分達で汲めばいいものを。
…皆可愛いから実はほくほくしてる、なんてことはないんだからね。絶対。
「どうせ暇なんだろう?なら私達のためにあくせく働け」
女王様だ…この御方、生まれついての女王様なのか…?
「名前さん名前さん」
くいくいと袖をひかれる感覚がしたので、そちらの方を見ると、綾部喜八郎くんだった。
女の子顔負けのぱっちりおめめに、少し癖のついたふわふわの髪。
今日もかっわいいな。頼んだら頭撫でさせてくれるだろうか。ほっぺぷーにぷにしたい。
「なぁに?」
「ターコちゃんに落ちてください」
………。
可愛いけどこの子、不思議っ子なんだよなぁ…。
行動を予測しづらいというか。
「なんでかな?」
「競合区にはなかなか来てくれないじゃないですか」
あんまり嵌まってくれないので。
と言って、無表情のままこちらを見つめる綾部くん。
競合区なんて危険なところ、行くわけないじゃないか。私に死ねと?
可愛い…可愛いが、危険だこの少年。
プリティボーイだから許す、わけでもないんだからね。
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