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「久々知君、豆腐、あげる」
そのくのたまは、そう言ってにっこりと笑った。
ぴしり。目を見開く。(電撃のようなものが体を走った。)
「あ、別にそれ毒入りってわけじゃないから。食堂のおばさんが作ってくれたそのままの豆腐」
それだけを言って。
くのたまは、風のように去っていった。
「おーい。兵助ー?」
「駄目だ。ただの豆腐小僧のようだ」
「聞こえてないね…」
「あーあ」
「はー」
最近、何だかぼーっとすることが多い。
「…おい。兵助のやつまたため息ついてるぞ」
「完っ璧重症だな、あれ」
「原因って、やっぱり…」
「兵助ー。豆腐、食べる?」
……豆腐。
……もぐもぐ。
「ちょ、勘ちゃん何してんだ!」
「え、豆腐あげてる」
「そんな“金魚に餌あげてる”みたいに言われても!?」
「兵助の好物だもん」
「いやいやそうだけど。
…でも兵助、やっぱり豆腐は食べるんだね」
「はぁ…」
「ため息つきながらな」
「どんだけ好きなんだよ」
「でも豆腐食べてるのにため息ついてるって重症だよね…」
…なんだろう。このモヤモヤした気持ち。
ふわふわして、なんだかよく分からない。
「…この気持ちはなんだろう…」
「とうとう諳んじ始めたぞ!」
「どこかで聞いたことあるような…」
「た、たにかわ…」
「春だ」
「勘ちゃん…?」
「兵助、それは恋だよ」
「こい…?鯉?」
こどもの日?
「ちがうちがう。ラブリーの恋」
「……………………恋?」
え、な、ななんか顔が熱くなってき……?
え?
「勘右衛門さまー!?」
「いいいいいきなり言うの!?」
「何てお人!!勇者の顔をした大魔王なのか!?」
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