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「愛をちょうだい。それだけでいいの。他のは全部要らないから」
愛が欲しいわ。愛が欲しいの。
私は愛が欲しくて愛があれば他は何も要らないのよ。
だから愛をちょうだい。
他は要らないわ。
愛してくれればいいの。
それだけでいいから。
「兵助、愛して」
名前先輩は"愛して"とよく言う。
それが唯一無二であるかのように、"愛して、愛して"と言葉でも行動でもよく表す。
俺はそんな名前先輩の恋人な訳だが、名前先輩のことがいまいちわからなかった。
名前先輩は、愛してくれるなら誰でもいいんじゃないか?
そんな疑惑がふっと湧き出たのは、確か四年の終わり頃。
疑惑は、そこで終わらずにどんどん広がっていった。
"愛してくれるなら、他は何も要らないわ"
つまりは愛を与えれば、浮気しようが何しようがどうでも良い。
そういう事だろう?
それって、名前先輩は俺を本当に愛してるって訳じゃあないんじゃないか?
一度閃いた思考は止まらず、愕然とした絶望に似た感情に脳が支配されていく。
試しに、わざと名前先輩の前で他のくのたまと仲良くしてみた。
その夜名前先輩に会っても、いつもと変わらない。
ストン、と心の何処かが落ちた。
…もういいです。
あなたは俺を愛しているけどそれは代わりがきくものなのですね。
なら、俺は先輩を愛すのでそれ以外は求めないで下さい。
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