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最近、何故かアステカさんに愛着が沸いてきた。
お父様に貰ったものだから、と肌身離さず持ってたのが影響したのか。
なんか、愛おしい。可愛い。そんな気持ちさえ沸いてきたのだから、これはもう末期かもしれない。アステカ可愛いよアステカ。
「なにもってるんだよ?」
じーっとアステカさんを熱を込めた目線で見ていると、下の兄が話しかけてきた。
「えへへーいいでしょ。アステカマスクゴーレム!お父様にもらったんだー」
いいだろいいだろーと年甲斐なく自慢してみる。いや、この体では相応なんだろうけど。
アステカさんを語るためか無駄にきらっきら笑顔になっていたと思う。
そのせいか、下の兄は驚いた顔をした。
今更ちっちゃい頃何してたかなーとか思い出せたりできなかったし、とりあえず難しいこと言ったりしたら駄目だと思うので黙ってたら、物静かで大人しい子だと思われていた。
そんな子が全力で笑顔で嬉しそうだったのだから、驚いてしまうことも無理ない。私だってクラスの篠原くんがめっさ笑顔だったらビビる。絶対病気だもんそれ。
「…ふーん」
そうやってにんまりと笑った下の兄に、あ、ヤバい、と思って咄嗟にアステカさんを仕舞おうとした。
「もーらいっ!」
「あっ、」
だけどそれは一歩及ばず、伸びてきた手にさっと奪いとられてしまった。
取り返そうと必死に手を伸ばすものの、容易くそれはかわされてしまう。
「か、返してよ兄様ぁっ」
「へへん。やだねー」
下の兄との年の差は然程ないが、自分が平均よりも小柄ということもあり、爪先立ちをして精一杯手を伸ばしても届かない。
ど、どうしよう。このまま争ったりしたらアステカさんがぐちゃぐちゃになってしまうかもしれないし、そうなったらすごい悲しいし…。
アステカさんが真っ二つとなる未来を想像した私の悲しみは、幼い体にダイレクトに影響していった。
「…………」
目の奥から伝わる熱。じわり、と涙が浮かんでくる。
溢れるのだけは必死に堪えようと、嗚咽を噛み殺してふるふるとすれば、目の前の兄がびっくりした気配が伝わってきた。物を取られたくらいで涙が出てくるってどんなガラスメンタルなんだこの体は。
「お、おい…」
あわあわと慌てる兄。待って、涙止めるから。女優並みの演技力発揮するんだ、私。
「止めなさい二人共」
と、私が女優になる前に、上の兄様が制止してくれた。
二人共って私悪くないんだけどーと子供らしく拗ねてみたりするのは置いといて、やんちゃでも聞き分けの悪い子ではない下の兄様は渋々とカードを返してくれた。
「…ほら」
「…うん」
返ってきたよ私のアステカマスクドゴーレムうううう!はああよかった傷ついてない心配したー。
あ、兄様気まずそうな顔してる。謝りたくても謝れない感じだ。ここで私が口を挟んだら逆効果かも。どうしよう子供の扱いなんて知らないよ私。
「二人共、良い子にしてたら後で兄様がデュエルを教えてあげよう」
「ほんとか!?」
わあい気が逸れたよやったね。兄様ナイスファインプレー。できた人だよ全く。
「うわあ、楽しみです!」
とりあえず私はにっこり笑っておく。敬語ロリとかうわあ…って感じだが良家のお嬢様っぽいので仕方ないね。
この体と新しい家族とうまく付き合うには、処世術だって駆使せざるをえないのである。
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