よってだからの解決
目が覚めたら、目の前に美衣子さんが居た。

「とーない!」

ドアップだった。かなりビビった。

「…ここは」

部屋を見渡す限り、どうやらここは保健室のようだ。
そうだ、僕、あれから気絶したんだったっけ。

「とーないとーない!だいじょうぶ?いたい?いたいよね、ごめんね、」

起きがけの頭に怒濤のように浴びせられる言葉に、ちょっとくらくらした。

「美衣子、さん。大丈夫だから、」

弱々しい僕を助けるように、誰かの声がかけられた。

「美衣子ちゃん。彼の頭に響くから、ちょっと静かにしてあげて?」

誰かっていうか、普通に善法寺先輩だった。

「…ごめんなさい」

美衣子さんは涙目で素直に頷いた。
…涙目?
いや、というか、善法寺先輩が居る?
あれ?美衣子さんは他の人の前では淑やかというか、悪くいうと猫を被っているのでは。

「浦風、大丈夫かい?軽く頭を打っただけとはいえ、打った場所が場所だからね」

「少し痛みますが、大丈夫です…」

ぼんやりと答えたが、頭は別の疑問でいっぱいだった。
そういえば、さっき善法寺先輩が美衣子さんのことを美衣子ちゃんとよんでいたけれど、前は天女様と呼んでいなかっただろうか。

「四人にはちゃんと謝るよう言っておいたから、後で謝りに来ると思うよ。なんなら殴ってもいいからね」

四人…?ああそっか、確か、善法寺先輩除いた六年生の四人に呼び出されたんだっけ。
あれは怖かった。いきなり呼び出されてついにか!とか思って、そしたらどんぴしゃで。
…結果的に僕が保健室送りになったわけだけど、これは事故みたいなものだし。むしろ、僕が倒れたことに先輩方がビビっただろう。
と、いうかそれより美衣子さんは一体どうしたんだ。いつもの僕と一緒にいるときの凛々しさがないし、…泣いてるし。

「美衣子ちゃんね、君が倒れたって聞いて一目散にあいつらのとこに行ったんだよ。凄かったよ。大声であいつら叱って、挙げ句の果てに『大嫌い』って言ってたしね。あいつら皆ポカーンとしてたよ」

…ということは先輩方、美衣子さんのコレを見たんだろうか。
そりゃびっくりするだろう。僕だってびっくりした。

「とーない、あの、その、」

これまで黙って頑張って静かにしていたのだろう美衣子さんが、今度は静かに喋り出した。

「ごめん、なさい。わたし、わたしのせいって、あの、三反田くんからきいてね、ごめんね、ごめんね、ごめんね」

そうして美衣子さんはポロポロと涙を溢しながら、ひたすら謝っていた。
…数馬、後でちょっと話そうか。
というか、さっき聞いた話しによれば美衣子さんは六年生の先輩方(善法寺先輩除く)を叱ってきたらしくて。しかも、大声で、大嫌いとまで。
この人がそんなことをそう易々と言う人でないのは、普段の美衣子さんを見ていればわかる。
きっと、始めてだっただろう。大声を上げるのも、人を叱るのも。
…うわ、考えると何か気恥ずかしくなってきた。止めよう。この人に他意があるはずない。ないない。

「美衣子さん、僕は大丈夫ですから。軽い怪我ですし、すぐ治ります」

にこり、と笑って僕は言った。

「ほんとう…?とーないだいじょうぶ…?」

「ええ。悪いのは先輩方ですし」

(さすが作法。きっぱり言うなあ)と善法寺先輩が思ったらしいが、僕はそんなことは知るよしもない。

「…よかった。とーない、だいすき」

そう言って、美衣子さんはやっとにっこりと笑ってくれた。
やっぱりその言葉にも特に他意は無いはずなので、僕は赤くなりそうになるのを堪えて、笑った。





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