きみがすき
ある日、みいちゃんが目をあけたらふしぎな国についていたの。
アリスのようにうさぎをおいかけてきたわけじゃないのに、ふしぎ。

えっとね、みいちゃんは空からひゅるるるっておちてきたんだって。にんじゅつがくえん、っていうがっこうに、みいちゃんおちちゃったみたいなの。
よくわからないけど、みんなはみいちゃんのこと天女様、ってよぶの。
天女様って、ひらひらした布を持っててきらきらしてる人でしょう?みいちゃん、そんなんじゃないのになぁ。

みいちゃんね、にんじゅつがくえんではたらかせてもらうことになったの。
おそうじとか、お皿あらいとか、いろいろ、やるのよ。
だから、うれしくてどきどきしていたの。

…でもね、みんな、みいちゃんのしごととっちゃう。

「天女様のお手を煩わすことなんてとてもできません」
「万が一にでも天女様が傷ついてしまったらいけませんから」

って、みいちゃんの手にあるほうきや、お皿や、紙の束をとっていっちゃうの。
まるで、みいちゃんのいたとこみたいに。
みんな、みいちゃんのこと綺麗で美しい。って、言う。

そればっかり。

こんな、こんなんなら、みいちゃんは美しくなんてなくてもよかった。みいちゃんは綺麗じゃなくてよかった。
みいちゃんなんて、

「あなたなんて、美しくない!全然、これっっっぽっちも美しく、ない!」

大きな声がみいちゃんのからだをつらぬいていって、みいちゃんはびっくりした。
声のほうこうを見たら、黄緑色のふくをきたおとこのこがいた。
みいちゃんなんて、美しくない。
そう、みいちゃんが思っていたことを見すかすように言われて、みいちゃんはどきりとした。

「美しく、ない?わたし、美しくない?」

おそるおそる、黄緑色のふくをまとった子にきく。

「美しくないです!綺麗じゃないです!」

そんなことを言ってもらえたのは、うまれてはじめてで。
ずっと綺麗だ、美しいって言われてきたみいちゃんがみいちゃんはいやで。
だから、みいちゃんは、思わず、おとうさまとおかあさまの言いつけをやぶってしまった。

「みいちゃんはね、名字美衣子っていうのよ!あなたのお名前は、なあに?」

ひとまえではことばづかいをきちんとしなさいって言われたから、おとうさまやおかあさまの前でもきちんとしたけど、もういいの。
みいちゃんはみいちゃんだから、綺麗でも美しくもないってこの子が言ってくれたから、みいちゃんはみいちゃんのままでいいの。

「浦風、藤内です」

うらかぜとうない。
そのことばを、しっかりとかみしめる。

「とーない。とーない、とーないね!」

とーない、だいすき。





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