すてきなわたし
綺麗だ。美しい。
そんなことばをたくさんかけられて、みいちゃんは育ってきた。
みんなみいちゃんを見てかならずそう言って、にこりとわらう。
みいちゃんはほほえんで、あいそうよくしてだまっている。
そうすれば、たくさんの人がわらってくれたから。
にこにこと、みいちゃんはわらう。
まわりの人も、わらう。
それだけで、しあわせだった。
お父様は美衣子はそうやって、微笑んでいればいいとおっしゃった。
お母様は美衣子が美しくて嬉しいと、おっしゃった。
だからみいちゃんはそうした。
お父様がいつまでも自分のことをみいちゃんと呼んではいけないというから、みいちゃんはみいちゃんのことを私って言うようにした。
お母様がもっとはきはき喋りなさい、というから、むずかしいことばもれんしゅうして、かつぜつよく言えるようにした。
そうやって、みいちゃんはがんばったけど、もっとがんばりたかった。だけど、みんなはそれをさせてもらえなかった。
みいちゃんはやらなくていいよって、ぜんぶとりあげちゃう。
みいちゃんはつくえをふいてみたかった。
みいちゃんは鳥にえさをあげたかった。
みいちゃんはそうじをしてみたかった。
みいちゃんは花に水をやりたかった。
みいちゃんはりょうりをしてみたかった。
たくさんたくさん、色んなことを、してみたかった。
ころんだら、手をさしのべられて、大丈夫?って言われて、みいちゃんはその手をかりておきあがるの。
みいちゃんは、ひとりでもおきあがれるのに。
みいちゃんは、手をかりなくたっておきあがれたのに。
そんなにたくさん、手なんていらないの。
綺麗だ。美しい。
そんなことばばかりかけられて、それがうれしくて。ただ、それだけだったのに。
みんながわらってくれるのがうれしかったの。
"綺麗で美しい私"でいようとしただけなのに。
それは、みいちゃんじゃないのに、みいちゃんがむりをして、みえをはったけっかなの。
しかたないの。
みいちゃんは、こんなんで。
みんながのぞむ"私"は"綺麗で美しい"のだから。
私が笑って、皆も笑って。
それが、しあわせってことなのでしょう?
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