いったりきたりの困惑
どうしてこうなった。
この状況はなんだ。
もう、僕に言えることはそれしかない。
目の前には、にこにこと無邪気に笑いながら今日の出来事を話す天女様、もとい美衣子さんがいる。
正直、さん付けするのが憚られる。一年生かそれ以下を相手にしてる気分だ。だけど一応年上だからさん付けする。年齢詐称してないか?この人。
僕が美衣子さんに物申した時(テンパってただけのような気がするが、気のせいだ)から、なぜか美衣子さんは僕にまとわりつくようになった。
まとわりつくと言っても、こう、小さい子がきゃっきゃとじゃれついてくるような…。いや、確実に年上なんだけど。六年生よりも年上なはずなんだけど。
誰だこの人のことを美しいと形容した人は。全然そんなんじゃないぞ。嘘を吐くな。
そんなこんなでなぜか、そうなぜか!なつかれた。うん、なつかれた、だ。
そうして、美衣子さんの今日一日の出来事を聞くようになるような仲になってしまったのだった。
ちょっと前も、美衣子さんが
「みんなね、みいちゃんにおしごとをやらせてくれないの。みいちゃんがやる前にとっていってしまうの」
とかなんとか言って、今考えるとこれは相談だったんだろうが、その時はわかってたのなら何とかしろよ!と思ったと思う。
「自分がやるって言えばいいじゃないですか。大体あなた、仕事取られてもにこにこしてるだけじゃあないですか。自分の仕事だから自分でやるってしっかり言ってくださいよ」
と随分キツく言ったのだが、
「言って、いいの?」
と首を傾げるものだから、つい何言ってんだこの人と思ってしまったのは記憶に新しい。
その日から、天女様は自分で仕事をするようになったらしい、というようなことを聞いたので、美衣子さんはしっかりと仕事をやるようになったのだろう。
そうして、
「今日は水くみをしたのよ!とてもおもかったけれどね、お水はとってもつめたかったわ!」
やら、
「今日はまきわりをしたわ!おのなんてはじめてもったわ!金色でも銀色でもないのよ。ぽちゃんって落としたのはこんなかんじのかな、っておもったわ!」
やら、
「しょるいせいとん、ってむずかしいのね。ミミズみたいな字なんだもの。わたし、がんばってよめるようにするわ!」
とかこの人今までどうやって生きてきたんだと思わせるようなことばっかりで、呆れたものだ。
ちなみに今日の内容は、
「とーないとーない!今日はお野菜を切ったの!あのね、にんじんはかたくてね、じゃがいもはほうちょうにくっついてとれなくてね、うちっかわの方がかたくて切りにくいのよ!」
だとか。当たり前のことすぎてへえ、そうですかと棒読みにしか言えなかった。
誰かこの人の外見縮めてくれ。十ぐらい削ったら年相応なんじゃないか?
これが、立花先輩が言っていたギャップ、というやつか。これの何がいいんだろう。謎だ。
というか最近視線が痛い。主に上級生からの。何であんなに力一杯睨んでくるんだ怖すぎる。僕下級生。しっかりしてくださいお願いします。
あと同級生からのどうしたお前的な視線も辛い。いっそ聞いてくれ。いつもはズカズカと切り込んでくるくせになんでこういう時だけ遠慮がちなんだ。そんな遠慮はいらない。
何だか胃がキリキリしてきた。
「とーない、どうしたの?おぐあいわるいの?」
気がついたら心配気な表情で美衣子さんが僕を見ていた。
「大丈夫ですよ大丈夫」
空元気もいいとこだが、こうやって美衣子さんに心配されるのは居たたまれない。ちっちゃい子に心配されてるみたいで。
…あー僕死なないといいなぁ。主にストレスが原因で。
[2/6]
[*前] | [次#]