だってどうしての結末
天女様が降ってきたと、みんなは言った。
ある日、突然、唐突に。
空から人が降ってきて、それが美しい女の人であったからという理由で、みんなはその人のことを天女様と呼んでいる。
ただそれだけなら眉をひそめただけで済んだのだけれど、そうじゃなかったから大変なことになっている。
何があったのかはしらないけれど、上級生のほとんどが天女様に惚れ、天女様天女様とへらへらしている。
天女様に任せられた仕事を、美しい天女様に傷がついたら大変だと言って奪い取っている。それで天女様はほぼ何もしていない。ありがとう、と美しく笑ってにこにこしているだけなのだ。
はっきり言おう。
三禁どうした。
禁じるから三禁じゃないのか。違うのか。どろどろに溺れてどうするんだ。アホじゃないのか。
そりゃあ、時々は上級生に呆れたりもする。特に四年と四年と四年とか。
でもそれ以上に尊敬していた。キラキラした目線を向けてたりしたと思う。今ははあ?とした目付きでしか見てないけれど。
天女様がなんだ。
毎日毎日ピーチクパーチク同じことばっかり言ってうるさいんだよ。
確かに天女様の姿は美しい。悔しいけど美しいと認めざるを得ない。
だけど、それだけじゃないか。
見た目だけの美しさなんて、そんなの美しいとは言わない。だから天女様美しくない。うん、美しくない。さっき言ったことと矛盾してる気がするけど、気にしない。
ここ最近ずっとこんな調子で、イライライライラしていた。立花先輩がイライラはお肌のストレスになると言っていたから、そのストレス分を返してほしいくらいだ。
だから。
ごくり、と唾を飲み込む。
この先には、天女様が、たった一人で、いる。
頑張って、天女様が一人きりになる時間帯を調べた。
大丈夫、大丈夫。
何度も予習したじゃないか。そのとおりにやればいいだけだ。大丈夫。
僕は、浦風藤内は、天女様に、物申そうと思う。
―――居た。天女様だ。
ぼうっと、どこかを見つめている。
不覚にも、美しいと思ってしまった。ぶんぶんと、頭を振る。違う違う違う!
美しい、と思ってしまったことを認めたくなくて、認めるのが嫌で。予習したことが頭からぴょーんと飛んでいって、僕は無我夢中で叫んだ。
「あなたなんて、美しくない!全然、これっっっぽっちも美しく、ない!」
はっとした。自分何言ってるんだ。これじゃあ余りにも支離滅裂じゃないか!
「美しく、ない?わたし、美しくない?」
天女様がこちらを見て、言った。きれいな、こえ。あー違う!思ってない!綺麗とか思ってない!
「美しくないです!綺麗じゃないです!」
これじゃあ予習も何もないじゃないか。ああ、実際にあった時はこんなにも上手くいかないなんて。予習ではもっと冷静に、ビシバシと天女様と対談してるはずだったのに。
僕が自分で自分を責めていると、天女様はぱああと顔を輝かせて、はにかんだ。
え?
「みいちゃんはね、名字美衣子っていうのよ!あなたのお名前は、なあに?」
天女様は、まるで童女のような拙い喋り方で、にこにこ笑って僕の手を握った。
「浦風、藤内です」
脳に情報が行き渡らなくて、混乱したままで、特に何も考えることなく名乗ってしまった。
「とーない。とーない、とーないね!」
舌っ足らずに、僕の名前を復唱する天女様。
天女、様?
え、この美しいとかの形容詞が全く似合わない笑顔の人が、天女様?
いやいやいやいや。え、誰?誰この人。僕の知ってる天女様じゃない。
何が起こった。誰か僕に説明してくれ。
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