×
どんよりと沈んだ気持ちで、ソファーに沈み込む。
いっそ、このままソファーに同化してしまえばいいのに。
そうしたら、余計なことも全部考えないで済む。
ガチャ
今、玄関のドアが開く音がした。
もしかして、パンティ?
「うおっ!?まだ起きてたのかよストッキング。電気ぐらいつけろよな」
…なんでコイツ、いつもより帰ってくるのが早いの。空気嫁ないなホント。
「るさいわね…。お兄ちゃんこそ帰ってくんの早いじゃない。何?とうとう女に見向きもされなくなったの?」
いつものように悪態を吐くものの、どうしても声を張れない。誰かと喋るのでさえ億劫なのだから、パンティにはさっさと退場してもらいたかった。
「それがよー聞けよストッキーン。今日はホンットツいてなかったんだわ。どいつもこいつも小便くせえテクニックでもう萎えまくり。やっぱ見た目がそこそこでも駄目なもんは駄目だな」
このヤリチンが、と言うかわりに、大きくため息を吐いた。
「アンタにお似合いの女ばっかで良かったじゃない…って何」
いつの間にかパンティが近づいてきて、上に跨がられた。何コイツ。実の妹に欲情したんじゃないでしょうね。
パンティの顔がどんどん近づいてくる。反応するのもメンドクサイ。ほっておこう。
こつん、と額が当たった。
「やっぱ、熱出てんな」
「はあ?熱…?」
じゃあなに、この身体がやけに重いのも、やたらネガティブ思考になるのも、熱?
…そういえば、風呂に入ってからろくに拭かずにこのまんまだったわね。思考から引き摺られてきて熱が出たのか。気づかなかった。
「お前いつもそうだもんな」
「…何が」
「お兄ちゃん呼びする時は大抵体調悪いじゃねーか、お前」
…そう、だっけ?
自覚無かったけれど、言われてみればそうかもしれない。死ぬ前は、お兄ちゃんって言ってたから。
パンティは、お兄ちゃんは、死ぬ前と随分変わった。何て言うか、もっとしっかりしていて、優しかった。それもこれもあんな環境だったから、と言えば今のパンティの自由奔放さは随分な皮肉だけれど。
変わってしまった、というより変われた、と言うべきなんだろう。少なくとも、今のパンティはあの頃より幸せそうだ。
今も昔も、パンティはお兄ちゃんなわけで。垣間見せる表情が、言動が、ふとした時昔のお兄ちゃんとダブる。
…そういう所が嫌い、と言ったらコレはツンデレになるのかしら。
でも、まあ、いいか。
「お兄ちゃん、一緒に寝て」
「なぁにストッキン欲情してんの?」
「馬鹿。誰がアンタなんかに」
たまにはデレてみるのも、悪くはないでしょう。
どんよりとした気持ちは、まだ晴れないけれど。
悪い夢は、見ないでよさそう。
[3/3]
[*前] | [次#]