憂鬱だ。



死んで生まれ変わった先は、クソみたいに最悪だった。

最悪、なんて大事を軽々しく使っていたことが馬鹿らしく思えるほどの、劣悪な環境。
そんな場所に私は生まれて、幸が不幸か生き延びてきた。
私が生まれた街は、澱んで、濁って、皆々醜悪なツラをおしげなく晒して、日々を生きていた。

浮浪児がいるのは当たり前。
死体が転がってるのは当たり前。
マフィアがいるのは当たり前。
売春買春は当たり前。クスリも当たり前。
皆が皆クソッタレで、もちろんその中に私も含まれていたわけで。

生きるためなら何でもやった、なんてテンプレを吐くことになるなんて、前世のお気軽女子高生の時には考えられなかった。
そうして私のクソみたいな人生は、やっぱりクソみたいに最期を終えた。


―――はずなのに。

私は、今ここで柔らかいソファーの上で寝転がっている。

二度目の死の後、私は、私達は天使になった。
願っても泣き叫んでも懇願しても助けてなどくれなかった神とやらのために、私達は働いている。

私達は天使になった。
そう、私と、あともう一人。

兄の、パンティ。

私は生まれた時から彼を知っている。
私達はあのクソッタレな街でいつも一緒だった。私達は私達以外を全て敵だと思っていた。私が信じているのは兄だけで、兄が信じているのは私だけだった。お互いが、お互いに寄り添って生きていた。

―――もっとも、それを覚えているのは私だけだけれど。
兄は忘れてしまった。
天使になって、それ以前のことをすっかり忘れてしまった。

いいな、と呟く。
私も、何もかも忘れてしまっていればよかったのに。
ゆっくりと手を動かし、自分の髪を持ち上げてみる。
真っ直ぐで枝毛など一本も存在しない、綺麗で艶のある髪。
私の身体は隅々まで綺麗で、どこも傷ついてなくて、あの頃とは大違い。

ひどく、憂鬱だった。

甘い甘いお菓子を見つめても、気分はちっとも良くならない。
今夜もパンティは女とセックスしに行っているから、朝まで帰らない。いや、下手したら昼頃に帰ってくるかもしれない。
ガーターもチャックも寝静まって、ここには私一人。

たまに、こうしてどうしても眠れない日がある。
これはある意味発作みたいなもので、不定期に訪れては私を憂鬱にさせる。

―――まだ、何も知らなかった私。
知らなくても、生きていけた私。
世界がどれだけ汚くて腐っていて残酷で、幸せも不幸せもすぐに逆転してしまうなどとは夢にも思わなかった私。
二度目の人生で論理感、正義、常識を悉くぐちゃぐちゃに壊されて潰されてしまって、消えたはずの女子高生の私が、ごくたまに"苦しい"と喚き出す。

それはどうしようもなくて、どうすることもできないから、私はただそれが過ぎ去るまでただじっと耐える。






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