05
ちょうど全員と自己紹介が終わったくらいに、私は…いや、私達はウサミ先生によって砂浜に呼び出された。なんでチャイム音で放送が始まるのか。
精神的に疲弊してる私はすっごく行きたくなかったが、何分全員集合なので、サボることはできそうになかった。
「めんどくさ…」
私がポソリと呟くと、狛枝がそれに反応した。
「まあまあ、行ってみようよ」
結構小さい声で、というか完全に独り言だったのに聞かれてたみたいだ。うん、今後からは心の中に秘めておこう。
狛枝に宥められたみたいでちょっとイラッとするので、道中にそれ以上の愚痴は吐かなかった。
いや、別に狛枝嫌いなわけじゃないのよ?
ただ宥められるという行為が私にとっては気に食わないだけで。
頑張ってローなテンションでいこう。クールになるんだ、私。
「お前達が最後だぞ。何をチンタラしているんだ…!」
うおぉぉ…この13対の目が一気にこちらを見る瞬間。怖い。怖すぎる。
てか十神お前速いな。お前私達と同じジャバウォック公園にいなかったっけ?何そのスピード。
「…ごめんね、待たせちゃって」
狛枝が謝罪をしてくれたので、私は動作で申し訳なさそうにしておいた。いわゆる形だけ"反省してます"というポーズだ。
「俺達だけで話し合いをしておくぞ」
十神のその言葉で、メンバーが次々にこの島への感想を言っていく。
途中で九頭龍が十神に煽られた時はヒヤッとしたが、ここはジャバウォック島なんじゃないか、という推論が出たとこらへんでやつが来た。
ウサミ先生だ。
先生は私達にウサミストラップとスイミングバッグをくれた。…ストラップの方は投げ捨てている人が多かった。しょんぼりしている先生がなんだか可哀想だったので、一応貰っておいた。ほら、ウザカワイイじゃん。よく見たら。これは流行る。
スイミングバッグを受け取った皆の大半は、着替えてから楽しそうに海へ行った。
私は精神的ダメージに肉体的な追加のボーナスが欲しくなかったので砂浜でボケッと見守ることにした。
ちなみにこれまでの間、無言である。
私、全然喋ってない。
このままじゃ無口寡黙キャラになってしまうよ。喋る時には喋るんだけどなあ。
「日向さんは、泳がないの?」
誰だ、と思って見たら七海…いやななぴょんだった。
…いやいやななぴょんて。何なれなれしく呼んでんだ自分。心の中でもそれはないわー。これ絶対兄ちゃんの影響だわー。恐ろしい。
「いや、なんか今日は疲れちゃったし、いいかなと。…それより七海、お願いがあるんだけど」
そう言うと、七海は暫く静止して、首を傾げて聞いてきた。
「…なに?」
確か、七海は喋ることを固めてからじゃないと喋れない性分らしいから、間々の沈黙は特に憂慮する必要ないだろう。
「今度、時間があいてる時でいいからさ、七海にゲームを教えて貰いたいなって」
七海はきょとん、と目を瞬かせた。
「……私に?」
「うん。だって超高校級のゲーマーでしょ?それに七海と一緒にゲームしてみたいし」
七海と、というところが重要。特に私にとっては。
「…うん。今度、一緒にやろう?」
「うん、約束」
よっしゃ、早くも約束取り付けたった。これで勝つる。
「…ん?」
七海とそんな感じの微笑ましい話をしていると、急に辺りが暗くなってきたのを感じた。
「曇ってきた?」
急激に真っ黒な曇が押し寄せて、雲一つなかった空を侵食していく。
なんだか、不吉だ。
『あー、あー…!マイクチェック、マイクチェック!』
それは、場違いなほど能天気な声。
こっちの気を逆立てるためにわざとやっているとしか思えない、不快でイラッとする声。
明るいのは上辺だけで、これっぽっちも裏に潜む悪意を隠そうとしていないのが、余計に腹立つ。
『うぷぷ…こいちゃった?ビックラこいちゃった?…ですよねー!
さて、大変長らくお待たせしました。くだらない余興はこれぐらいにして…。そろそろ、真打ちの登場でございます!オマエラ…ジャバウォック公園にお集まりくださーい!』
それだけを一方的に告げると、ブツンと声は途切れる。
ウサミ先生は慌ててどこかへ行ってしまった。
続くように、七海と終里も行ってしまった。
…くそう、折角七海といい雰囲気だったのに。空気読めよ、ホント。
「急だなあ…。泳いでるやつらどうする?」
「連中の着替えを待っている暇はない。何やら嫌な予感がする…先に行くぞ」
そう言って十神もさっさと行ってしまう。
泳いでない連中は行ってしまうみたいだし、私も重い腰を上げて行こうかな。
なにやら面倒事の香りがプンプンするが。