狛枝に手伝ってもらう

どっさりと積まれた荷物達の前に佇む私、日向はじめ。

ロケットパンチマーケットで買い物(お金を払わないので買い物といえるかは怪しい)をしていたら、思ったより荷物がかさんでしまった。
これを一気に持っていくのは無理だし、小分けにして何度も往復するのは面倒だ。
かくなる上は荷物の削減をしなければなるまい、と考え込んでいた私に、

「あれ?日向さん?」

「――狛枝」

声をかけてきたのは狛枝で、思わず私が

これは、使える。

と思ってしまったのは仕方のないことだったと思われる。





「ありがとう狛枝。助かったよ。正直、凄く困ってたんだ」

「日向さんの役に立てるならどうってことないよ」

マーケットからの帰り道、思い荷物を分担して持っている私と狛枝。

あの後、奇遇だねと話しかけてきた狛枝に下心ありきで現状を話したら、快く荷物を持ってくれた。
狛枝ならそう言ってくれると思った前提で話したのに、あまりにも爽やかに引き受けられたのでちょっと申し訳なくなった。
荷物を全部持つという狛枝を説得して、一部を持ったのはその申し訳なさからきていたり。

「えっと、ごめん。狛枝にも予定あっただろうに、手伝って貰って」

「そんな、ボクなんかの予定を心配することないよ。それに、暇を持て余して散歩してただけだから、かえって手伝うことができて嬉しいよ」

謙虚!ちょっと卑屈だけど!
なにこれイケメン。この溢れる草食系オーラはどこからきてるんだ。

「ところでこんな大荷物で、何するつもりなの?食料品ばっかみたいだけど」

うん、よく聞いてくれた。と言いたい。

そう、私がこんな大荷物を持ち帰ろうとするには、わけがあるのです。

「草餅が、食べたくて」

「え?」

「今日、せっかくの休日だからゴロゴロして過ごそうとベッドに潜り込んだ時。なぜかそこで、強烈な"草餅食べたい"という思いにかられてしまったんだよ。一旦そう思ったらどうにもこうにも止められなくて、草餅で頭の中が一杯になってベッドでゴロゴロなんてしていられなくて、材料を集めに行っていたわけだ」

ちなみに言っておくが私は別に草餅愛好家じゃない。
餅もヨモギもあんこも嫌いじゃないが、それよりもケーキとかクッキーとか洋風の物の方が好きだ。
衝動的に食べたくなるような代物でもない…と思う。

それなのにこんな発作みたいな症状になるのは、この体の持ち主――日向はじめが余程草餅が好きだったから、としか考えられない。
頭は違っても体は覚えてる、ってやつかもしれない。

「へ、へえ、そうなんだ」

うわあ狛枝にひかれてる。ショックだわ。
私のせいだけど私のせいじゃないのに。

「あれ?でも袋の中にヨモギとかあんことか無かったよね?ボクの記憶では確か、草餅にはヨモギが必要だった気がするんだけど」

「ん、だから午前に花村に手伝ってもらって摘んできた。あんこも花村が用意してくれるって」

話を振ったら嬉々として一緒に摘みにきてくれましたとも。
草餅が食えるならまだセクハラも我慢できる…まだ…。

「確かに、超高校級の料理人である花村クンなら詳しいだろうね!」

憧れちゃうね、と狛枝。それ確か九頭龍あたりにも言ってたような。

料理のことに関しては花村に任せて間違いない。が、それ以外の言動(セクハラ)はノーサンキューだ。
今日の犠牲はスリーサイズだった…。大事なものを亡くした気がする。

「でもこんなに量はいらないんじゃないかな?」

狛枝がこんなにと評するくらいに、どっしりと重さが伝わる量だと思ってください。
特に粉。これがすごく重い。

「とりあえず、大量に作って二度と草餅食べたくないって思うぐらいまで食べるつもり」

そしてこの衝動をどうにかしたい。こんなんじゃおちおち寝てもいられない。

「日向さん、…ほどほどにね?」

苦笑された。
こっちとしては結構必死だが端から見たらただ好きなものを貪る女子にしか見えないんだよな…。
私のせいだけど、私のせいじゃないのに。





そんなこんなで雑談をしていると、コテージの前に着いていた。

人と喋りながらだと、どうしてこうも距離が短く感じられるんだろう。距離は同じでも、行きと帰りでは大分違った。

「ここまででいいよ。ありがとう」

「台所まで運ぶよ」

「いや、そこまで迷惑をかけるのは逆に申しわけないし。あと少しだから頑張って持ってくよ」

「迷惑だなんて!ボクなんかが、日向さんの手伝いができる光栄を迷惑とか思うわけないじゃないか!」

「お、おう」

狛枝の(なぜか無駄に熱い)熱弁に押しきられ、台所まで運んでもらってしまった。

しかしどうしてこんなにも卑屈なのだろうか、この男。良い奴だけど。







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