バッタリ遭遇した
「ふわあ…」
眠いなあ。
起き抜けの気だるい気分を、欠伸一つで振り切り、ベッドから抜け出す。
洗面所で顔を洗う。女の子のここら辺にかける時間は長いので、顔を洗うという一言でおさめられてしまうのは少し心外だ。
この作業を時々、というかしょっちゅう面倒臭いと思う。
でもこれもお肌を保つため。若いころからのケアが大切なのだ。青春なんて一瞬で過ぎてしまう。
ここに来てから、心底ぐっすり眠れた、ということがない気がする。
もちろん体は(それ以上にメンタル面も)疲れているから、寝てはいるしうなされる、ということもない。
ただ、スッキリとした気分で朝を迎えれない。
元々寝汚い方だが、こうもスッキリしないと寝るのが嫌になってしまう。それは嫌だ。寝ることは好きなのだ。
準備を整え、朝食に向かうために姿勢を正し意識をしゃっきりとさせる。
コテージのドアを開けると、意外な人物に遭遇した。
「…あ?」
「あ、九頭龍か…うっす」
九頭龍だった。
珍しい。こいつは朝食を皆と食べたくないらしいので、少し時間をずらして食事を取っているはずだ。こんな時間にばったり会うのは珍しい。
「朝っぱらからテメーなんかと会うなんて、ついてねーな…。言っとくが、テメーと話す気はねーぞ。オレはちっと虫の居所がわりーんだ」
虫の居所が悪いのはいつものことじゃないすか、といったらまたキレられそうなので黙っておく。からかえるような相手でもなし、藪をつつくのはごめんだ。
「九頭龍がこの時間帯に出歩いているのは珍しいね」
「話す気はねーっつってんだろ…。コテージに帰るだけだ…ほっとけ…」
愛想ないなあ…。少しぐらい付き合ってくれても良さそうなものなのに。
「出かけてたんだ。…ん?その封筒…」
九頭龍が持っていた茶封筒。
それがなんか妙というか、酷く浮いているような気がした。
「う、うっせーぞ!話す気はねーっつってんだろっ!」
九頭龍はささっと封筒を私から見えないように自分の体で゙隠した。
目を細める。
こんな時間帯に彷徨いていた九頭龍…帰ってきた…不自然な封筒…。ははんなるほど、察しはついた。
大方、あの悪趣味そうなゲームの帰りで、封筒はゲームに関連したなにかといったところだろうか。
ゲーム内容をメモったにしては大きすぎるし、中に書類でも入っているのだろうか。
「例のゲーム…」
「は、はあ?なんだよそれ…」
この反応はビンゴか。明らかに動揺したぞ今。
わかりやすくて結構だがこんなんで大丈夫か極道。
「…なんてね。あは。じゃあね、気をつけて帰れよー」
「なめてんのかテメー。…ちっ」
舌打ちを一つして、不機嫌そうに帰っていった。
…ふぅ。なんとか地雷は踏まずにすんだかな。
封筒の中身とか、本当にゲームやったのかとか、色々聞きたいことはあるが九頭龍が素直に答えてくれるはずがないし。逆に神経を逆立てるだけだと思うし、しょうがないっちゃーしょうがないか。
できるだけ波風立てないようにしたい。
正直、いつも喧嘩腰で対峙されてるとなかなかにキツいのだ。
怖いし、なんでそんなに不機嫌なんだろうって思う。
うーむ、この件は皆に報告しておいた方がいいのか?
また九頭龍への不信感が高まるだけのような…。
でも、ホウレンソウは大事だよな。
うん。
朝食の話題としてさりげなく提示することにしようかな。