引き受けた
ロビーに入ると、ゲーム機をいつものように陣取る七海と、珍しく、罪木が一緒になにかしているようだった。
「日向さぁん、聞いてくださいぃぃぃ!」
「お、おう。嬉しそうだな罪木」
「七海さんが私にゲームを教えてくれたんですぅ…!」
罪木は七海にゲームを教えてもらい、対戦もしてもらったことに酷く感激しているようだった。可愛いな、罪木。
「お友達と一緒に遊べるなんて…すごくすごく嬉しいですぅ…。ありがとうございますぅ、七海さん」
「そんなに感謝される事じゃないよ。私だって楽しかったしね。良かったら、もう一度対戦する?」
「は、はぁい!是非、お願いしますぅ!」
可愛いな、どっちも。
私も七海に教えてもらった時、すごい嬉しかったし楽しかったもんな。
「いいなあ」
ボソリ、と呟いただけだったのだが、思ったよりロビーに響いてしまい、少し恥ずかしくなった。
「ねえねえ、罪木、あとで私とも対戦してくれる?」
二人仲良しなのが羨ましい。っていうかそこに私も混ぜてほしい。
でもまずは腹ごしらえだけどな。
「も、もちろんですぅ!」
「ありがとう。じゃあまた後で、遊ぼうね」
微笑ましい光景に遭遇したことで、癒された。
九頭龍との件がチャラになるくらい良い出来事だった。
「おはよう」
に行くと、そこには小泉が一人でいた。
他の人はまだ来てないのか?
「あ、はじめちゃん。おはよう」
「他の人は?まだ来てない?」
「うん、まだみたい。もう、こんな時に限って誰も来ないなんて…」
こんな時?と頭にハテナを浮かべた時、小泉が手にトレイを持っていることに気がついた。
「それってもしかして、狛枝の?」
「だってさ…縛られたまま放置してたら、本当に餓死されちゃうし…。て言うか、いつまで続けるんだろうね?」
狛枝、というか男に気を遣っているのが照れ臭いのか、目を剃らして早口でつらつらと喋。
小泉可愛いなぁ。
てか、すっかり狛枝のご飯とか生理的なこと忘れたよ…。
なんか、狛枝なら大丈夫という謎の安心感があるんだよなー。
放置しててうっかり殺しました、とか洒落にならない。
「ずっと縛って閉じ込めて、なんてするわけにもいかないしなぁ…」
そもそも私は狛枝を縛っているのは反対なのだが。
そうしてしまうのもわかるし、じゃあ他にどうすればいい、と聞かれたら口ごもるしかないのだが。
「…と、アタシもさっきまで思ってたんだけどね。やっぱり、ずっとでもいいかも」
「…ん?」
あれ?ここは賛成してくれるものだと思ったんだけど。
もしかして、小泉、もう狛枝に会った後、とか?
「聞いてよ!実はね、さっきも狛枝の所に行ったんだよね。でも、ご飯は苦手だからトーストにしてくれだってさ!」
「うっわ…」
それはイラッとする。
閉じ込められてどうしてるかと思えば、余裕綽々じゃないか、狛枝。
相変わらずめんどくさい男だ。
と、いうか、今の話の流れからすると、もしかして小泉、もう一回狛枝の所に向かうのか?
「あのさ、それ私が持っていこうか?」
これ以上小泉を変態の所に向かわせるわけにはいかない!と思ったら、咄嗟にその言葉が出ていた。
「え、いいよいいよ!女の子をあんな危険な奴の元に向かわせるわけにはいかないよ!適当に男子に頼んどくから、大丈夫」
「トレイ置いてさっさと帰ってくるだけでしょ?暇だし、私やるよ」
「…そう?なら任せてもいいかな。ホントのこと言うと私も、用事があるからどうしようと思ってたんだよね」
あら、ちょっと意外。
小泉ならもう少し引き留めるかなんかするかと思ってた。
用事があるから、って言ってたよな。
「用事?」
「うん、ちょっとね。
…じゃあ、任せちゃってもいい?」
「いいよ」
ひっかかるとこがあるけど、まあいいか。
小泉からトレイを受けとり、旧館までの短い間に考える。
狛枝凪斗。超高校級の幸運。
希望のためならなんでもする、といった彼を、私は理解できない。
最初の頃の狛枝が嘘だったとは思わない。
演技でもなんでも無いからこそ、恐い。
理解できないし、恐いけれど、決して嫌いではないんだよなあ…。複雑なことに。