冷却のち牽制
ぐらぐらと煮えたぎって、沸き上がる感情を抑えることはできなくて。
「駄目」
考えるよりも先に口から出ていた。
ドフラミンゴさんの言葉を聞いた時頭が真っ白になって、咄嗟に出てきたのがこれだった。
「ホノは、あげない」
いやだ。
私の炎を他人に渡したりするものか。
聞き分けの無い子供のようにただそれだけが頭に巡っていて、ぐるぐるする。
まともに思考できてないな、と冷静に観察する自分が言う。
これはただの依存だ。
ホノの目に私は別のものを見ている。離れたくない。放したくない。
馬鹿みたいな話だ。全く関係ないものを重ね合わせているなんて。
けれども、それがないと、気でも狂ってしまいそうなのだ。
「ホノは私のものだ」
私の執着は、恋情みたいな甘酸っぱいものではない。もっとドロドロで、汚ならしくすがり付くようなものだ。
私は私の世界を忘れたくない。前の私を忘れたくない。こんな世界に、馴染んだりしたくないの。
人を平気で傷つけられる人間にはなりたくない。枷や鎖で人を縛り付けるような人間にもだ。
ましてや、それができて当然と思うような人間になんて。
「…フ、フフフフフッ!!面白い、面白いなァお嬢ちゃん。相変わらず」
ドフラミンゴさんの廊下に響き渡るような笑い声で、私はパチンと弾けるように現実に切り返された。
剥き出しになった熱が一気に冷めるように収束していく。
いつの間にか、ドフラミンゴさんを睨み付けるように見てしまっていたらしい。
寄っていた眉を戻し、非礼を詫びようとすれば、下げようとした頭を顎に触れる手によって戻される。
ドフラミンゴさんは私の頭を掬うように持ち上げ、自分と目を合わせるようにした。
3メートルもあるドフラミンゴさんと目を合わせるのは困難で、すぐに首が痛くなってきた。
放して下さいと言おうにも、先程はたらいてしまった無礼が私を押し留める。
「そいつを手放したくないなら、いっそお嬢ちゃんごと俺のものになるか?」
どういうことですか、と口に出す前に、グン、と引っ張られる感触がして、気がついたらその場より5、6メートルは下がっていた。
一気に距離が広がり、思わずきょとんとしてしまう。
「…ホノ?」
「………」
腰を抱える腕は、ホノのもので。
顔を伺おうと思っても、ホノと密着している体勢では伺い知ることはできなかった。
「フフフッフフ!番犬付きか。流石に勘が鋭い」
ホノは私を抱えたまま下ろそうとしない。
よいしょと頑張って体勢を動かし、ホノを見ていれば変わらぬ無表情で、だのに雰囲気だけはピリピリしていた。むう。
「あんまり、ホノを虐めないであげて下さい。ホノ、下ろして?」
「、………」
そう言えば、やっと下ろしてくれた。無表情だがちょっと憮然とした様子に見える。どうしてだろう。
「えーと、ドフラミンゴさん。すみませんがそろそろ食事の時間なので、部屋に戻らせていただきますね。無礼を働いてすみませんでした」
とりあえず、このままの空気はまずいだろうと思った。
ドフラミンゴさんは迫力のある笑顔だし、ホノはなんとなくイラッとしてそうだ。
この二人、実は相性悪いのかもしれない。
メアリーの時は目もくれずだったから、気にしてなかった。
ホノの手をひいて、ささっと退散する。
あ、そうだ。
「ドフラミンゴさん!」
離れたので、少し声を張って。
これだけは、言っておかないと。
「ホノは、あげませんからね!」
その後、廊下で一人大笑いしているドフラミンゴさんが見られ、海兵の方達がドン引きしたそうだ。
うん、ドフラミンゴさんのツボは、わからない。
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