ひとときの安らぎ


私が家で落ち着ける場所は、自室と図書室である。

自室は自分の空間なので勿論落ち着くのだが、時々兄が無遠慮に入ってくるのが心臓に悪い。ノックぐらいしてくださいお兄様。

それに比べ、図書室は静かで良い。我が家に図書室があるなどどんな豪邸だよと突っ込みたいが、そのくらい権力と金があるのだ。
兄は勉強が好きじゃないので、図書室には近づかない。人も滅多に来ない。寧ろ、図書室を利用するような者は家族の中で私ぐらいなので、煩いわけがない。私がいなかったら全くの無駄スペースである。

私は読書が好きだ。別に、周りの煩さで集中が途切れることは無いけれど、静かな場所で読書をすることは幸せの一時だ。
ここにいる時はいつも感じている罪悪感を本を読むことで忘れられる。憩いの時間なのだ。



――コンコン

そのノック音で、意識が本から浮上した。

誰だろう。兄ならノックなんてしない。むしろここに来ない。
よって使用人の可能性が高い。…使用人という名の奴隷だが。名は大事だ。奴隷でも、使用人という言い方をすることで苦しさをまぎらわすことができる。

「はい、どうぞ」

「失礼致します。お寛ぎの所申し訳ありませんが、兄君がお呼びになっています」

「お兄様が?」

何の用事だろう。この時間帯はとりたてて何かがあるわけじゃないのだけれど。

まあ、いつもの気紛れだろう、とあたりをつけて読みかけの本に栞を挟み、閉じる。

ああ、良いところだったのに。
続きが気になってしょうがない、あのそわそわした感覚に包まれるが、ここでさっさと行かないと兄が不機嫌になって、そこらの奴隷に被害が行く。私のワガママで無駄に鞭打ちさせるわけにはいかない。

「ホノ、行こう?」

積み上がっている本に埋もれていた体が、のっそりと動いた。
そこは日の当たりの良いところで、昼寝するには絶好の位置だった。
ホノは昼寝をするのが好きみたいで、よく寝れる場所を探しては寝ている。猫みたいだ。

「………」

寡黙なホノはあまり喋らないが、"眠い"という気持ちはその瞳から充分に伝わってきて、思わずちいさく笑ってしまう。

「ケット、兄様はどこにいらっしゃるの?」

さっさと用事を済ませてしまおう。そして本を読もう。











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