親切心が人を殺すのだ


変だと思った。だから、私なりに気を遣ったつもりだったのだ。

「私、一人で着物着てみたい」

勇気を振り絞って、できるだけ優しく言った。
私の発言は、何気無く言ったことでも重く受け取られてしまう。天竜人だから。

毎朝毎回衣服を着せて貰うなんて、慣れなくてそわそわしていた。
赤ん坊の頃ならまだしも、自分一人で着られるくらいの歳になったのだから、いつまでも着せて貰うのはなんだか申し訳ないと思ったのだ。
着物くらい一人で着れるし、そんなことで一々メイドさん…奴隷、の人の手をわずらわせてはいけない、といつも私のお世話や兄のワガママに忙しいメイドさんを気遣ったつもりだった。

「わ、私、何か粗相をしてしまったのでしょうかっ!?すみません、すみません、お許しください、お嬢様ぁ…」

私の前で、地面に額を擦り付けて必死に謝るメイドさん。
取り乱して何度も何度も謝罪する様子に、さあっと顔が青ざめる。

私、間違えた?

できるだけ優しく言った、つもりだった。
私なりに気を遣った、つもりだった。
つもりだった。

そうか、駄目だ。駄目なのだ。
わかってなかった。私は馬鹿だ。

この人は、私に衣装を着せるのが仕事なのだ。それを主人の私が拒否すれば、それが例え私の善意であってもメイドさんにとっては主人からの重い"拒絶"なのだ。

兄や父に散々痛め付けられて、痛みによって教育されたメイドさんが、主人の気分を損ねたと思ったら。

私は何もわかってなかった。

「顔を上げて?」

優しく、優しく。労るように傷つけないように。

そろり、と顔を上げたメイドさんは、これから何をされるのだろうという不安と恐怖で一杯の表情で私を見ていた。

「ごめんなさい、少しワガママを言ってみたかっただけなの。着物、着せて頂戴?」

痛い。胸の中を渦巻くドロドロとした気持ちが私を突き刺す。

私は恵まれているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう、なんて、理由は明白だった。けれど理由が分かっていても私にはどうしようもないのだから、私は苦しさを押し隠してしまうしかない。

「は、はいぃっ!!只今!」

パアッと顔を明るくさせたメイドさんは、いそいそと私に着物を着せていく。

優しさを施すのは必ずしも良いことにはならない。

私の発言で、メイドさんは後から仕置きを受けてしまうなんて考えてなかった。うかつすぎる。

奴隷の彼等に、私にできることはとても少ない。
できて、暴力を振るわないとか厳しい口調で話しかけないとか、そういうことだけ。

もう少し強い自分であればよかったのに。奴隷なんていけない、解放しよう!とか言えるような。私は保身に走るばかり。

歯噛みする思いで一杯だ。











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