俺という人間の人生2


それからのことは、思い出としてはあまりにも悲劇的過ぎて笑いたくなるような生活だった。

俺の一族が世にも珍しい稀少な特性を持っていた、と言えばその後どうなったか想像するに容易いだろう。
奴隷になった。一文だけでやけに絶望的な響きがするが、まあよくあることである。

人に従うのが不得手な俺は、奴隷としては扱いにくいのか執拗にいたぶられ続けた。
その過程で声が出にくくなったり色々あったが、従ってやるものかと半ば意地のように抵抗していた。要するにグレていた。



今日もガシャンガシャンと耳障りな音を出すことに執心していると、見たことのない人物が俺の檻の前に現れた。

牢屋に相応しくない綺麗な格好をした少女は、ガシャンガシャンと煩い俺を気にせず近づいてきた。
お世辞にも子供に好かれるようなナリをしているとは思わないので、何も気にせず不用意に寄ってきた少女には驚いた。

だが、絶賛グレ期な俺には関係なかった。小綺麗な見た目をしているこいつは、恐らく天竜人とかいうお偉いさんなのだろう。
後ろで喚いてる煩いのも、きっとそうだ。

「あなた、炎のような目をしているのね」

その言葉は、やけに響いて聞こえた。自然に力が抜け、俺の抵抗は無くなってしまう。
たいして大きな声ではなかったのに、どうして耳に入ったかなど、愚問だった。

『きれいね。目が、炎みたい』

デジャヴ。それも、強烈な。

一言だけで俺の動きを止めた少女は、近くの鞭を持ったやつと言葉を交わすと、俺の鎖は解かれていた。

呆然としていた俺は、思わずまじまじと少女の顔を見た。
似ていない。顔は。雰囲気は、どことなく似ている。
儚くて、脆そう。触れたらすぐに壊れてしまいそうな。

「私は、シャルリアと申します。あなたのお名前は?」

「………」

首を横に振る。
確か、一族から名付けられた名があったけれど、呼ばれることが少なすぎて忘れてしまった。あいつ、そいつ、こいつという言葉は便利だ。
捨てられた前世は名前も無かったので、名前がいるときだけ適当に名乗っていた。
そういえば、自分には名前がないのか、と今更得心したような気持ちになった。

いや、そもそもなぜ俺はこうも素直に少女――シャルリアと対峙しているのか。
俺は決して人に恭順するような人格をしていない。むしろ反抗心丸出しだ。協調性のないタイプだ。

「では、私が名付けてもいいかしら?」

こくり。
まただ。当たり前のようにシャルリアの言葉に答えている。
それが面映ゆくて、らしくないと戸惑う。

やはり、あの花のような少女に似ているからだろうか。

「ホノ、と、名付けましょうか」

細く、しなやかにシャルリアは告げる。
ああ、似ている。顔つきも仕草も何もなも違うのに、似ている。

「……ホ、ノ…」

久しぶりに声を出した。掠れて、ほぼ息のような声と呼べるか怪しい代物だったが。

「ホノ。お願いです。私のものに、なって」

そう言って差し出された白くて細い手を、戸惑うことなく握っていたのに、驚いた。
郷愁、のようなものなのかもしれない。おそらく。自分にそのような感情があったことが、既に驚きなのだが。

俺の手を握り返し、笑ったシャルリアは、少女にそっくりだった。












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