同じく私も最低に違いない
「ねえ、その人の枷、外してくれないかしら?」
「し、しかし…」
「お願い」
渋々、恐々といった様子で男の鎖を外していく調教師。当然だ。いつ襲いかかってくるかわからないのだから。
しかし私は天竜人であり、彼はお願いという形でも命令に聞こえているのだろう。権力、こわい。
最後の枷が外れても、男は静かなままだった。
じ、と、こちらを見つめてくるのみだ。
――やはり。
あの、炎の色だ。私を包んだ、あの炎だ。
「私は、シャルリアと申します。あなたのお名前は?」
「………」
黙って首を横に振られる。
これは、ない、ということだろうか。
「では、私が名付けてもいいかしら?」
こくり。頷く男。
…いや、さっきから妙に静かで従順だが、一体どうしたんだ。暴れるのを止めたのといい、なにが彼の琴線に触れたのやら。
わからないけれど、私にとっては好都合である。
名前…なまえ。自分から言い出したことだけど、全く考えていなかった。
しかし、考えるまでもなくポロリと口から零れ落ちてきて、自然に空気を震わせていた。
「ホノ、と、名付けましょうか」
思いっきり即席感満載な名前だった。
炎に似た瞳だからホノ。だと思う。反射的に出てきたものだから意味なんて後付けでしかないが、多分そんな感じだろう。単純すぎたかしら。
「……ホ、ノ…」
どうやら喋ることはできるみたいだ。随分久しく声帯を使ってなかったのか、ひゅーひゅーと風の音みたいな掠れた声だ。
私が勝手に名付けた名を、ぼそぼそと呟くホノ。
私の身長を優に越える大男が、まるで幼子のように言葉を反復するものだから、どことなく可愛らしく思えてくる。
これから私がしようとしていることが汚く思えてくる。いや、汚いのだけど。実際。
私は檻の中に手を伸ばした。
「ホノ。お願いです。私のものに、なって」
ストレートに、かつ素早いお願いという名の命令だった。ド直球にもほどがある。
だって、私はこれしかやり方を知らない。
どうやってでもホノが欲しかった。形振りなんて構ってられないほどに。
差し出した手は、私より二回り、いやそれ以上の大きな手に握られた。
ぎゅう、っと握る。
もう離さない。絶対に。
前世の影を追い求めるために、私はホノを手離さない。私のものだ。私だけのものだ。
これで、私もここの家族と同じ。最低レベルまで落ちてしまった。
ああ、最低だ。人を奴隷として使うなんて、なんて、ああ、私は畜生にも劣るだろう。
でも、これでいい。
このまま言い様のない焦燥感に駆られて死にたくなる位苦しいのが緩和できるのなら、私は最低でいい。
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