ノスタルジーというやつ


――ガシャン、ガシャン。

太い鎖、大きな手枷足枷、体に走る無数の傷。
それでも、その男は何かに抵抗するようにもがき続けている。

――ガシャン、ガシャン。

目の前に立った天竜人を見ても、それは一向に変わらない。
男は私達など目に入っていないが如く、凄まじい力で暴れている。
拘束されているものを解けば、たちまちこちらに襲いかかってきそうな勢いだった。

――ガシャン、ガシャン。

「なんだえ!!この奴隷は!ああうるさい、早く殺してしまえ!」

「恐れながらチャルロス聖。こちらは、古き時代に恐れられたというあの戦闘民族――」

お前もうるさいよ、と思うような兄の声も、兄を宥めながら男について解説しはじめるケットさんの声も、今の私にとってはどうでもよかった。

――ガシャン、ガシャン。

暴れている男と少し目が合った。

目を、見開いた。





私が、前世で死んだ時。

不注意か、不始末か、はたまた故意か。
炎の中、私は息を引き取った。

燃え盛る紅蓮の色。間近に迫ってくる大量の火は、毒々しいくらい赤黒く、人の悪意のようだった。

それが、私の前世での最期の思い出だ。

一瞬だったが、私はしかと見た。

男の目の色はまさに私が見た炎そのものだった。


どろどろと、久しく感じたことのない欲求が私の心からはみ出してくる。
とても単純で、原始的な欲求。

欲しい。

この男が、欲しい。

ただの"欲しい"という感情。
この世界では、欲しがることなく全てが私の元に転がってきた。何も言わなくとも、生きるために必要なものは充分に与えられた。

ここに産まれてから、前世の面影など一つもなかった。
過ごすごとに磨り減っていくような消耗感。静かに、しかし確実に追いたてられ心が削られていく。

思い出されるのは前世。
親がいて、兄弟がいて、友達がいて、今ほど豪華ではなかったけど確かに幸せだったあの頃。

帰りたい。あそこにいたい。死にたく、なかった。

でもそんなのは、無理だ。

ならば、たとえ苦々しい思い出――私を殺した炎だとしても、前の世界に浸れることができるなら。

それでいい。それだけで、いいから。

「あなた、炎のような目をしているのね」

周りの人が止めるのを聞かず、私は男に近付いて言った。

――カシャン。

あれほど暴れていた男は、突然静かになった。











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