地下室ほど気味の悪いものはない
「お前もとうとう奴隷を持つようになったんだえ?兄様がアドバイスしてやるからなんでも聞いていいえ」
と頼んでもないのに兄が着いてきた。
ここはたくさんの奴隷が収容されているという地下室。
上の私達が生活しているところより、薄暗くて埃くさい。
長年の箱入り娘生活のせいでめっきり体力やら免疫力やらが落ちた私には堪える場所だが、何より堪えるのは環境でなくそこにいる――いや、"いれられている"人々達の姿だ。
その人々の目は同様に暗く濁っており、生気がない。ただぼんやりと、こちらを向いているだけだ。
父親いわく、ここは"躾部屋"なのだそう。
連れてこられたもの達でも、特に反抗的なものは、ここにいれられ"躾"を施される。文字どおり、牙をもいでしまうのだ。
吐き気が、する。
ここに一秒たりともいたくなかった。
そもそも、私は奴隷なんていらない。
隣の兄のように、苛々したら奴隷に鞭うって、こき使って移動の際も奴隷に乗るような輩に私はなりたくない。
なので私はいつも徒歩で移動している。
私の生活範囲は狭いので、徒歩で充分事足りる。外出は滅多にしないが、するときは父親にお願いして馬車でもなんでも、とにかく人に乗って移動することはない。
特に兄からは奴隷に乗るのをプッシュされるが、私は断固として拒否した。お兄様、きらい。その一言で呆気なく撃沈した。
身内、それも末っ子で唯一の女である私には皆何かと甘いのだった。
適当に見る振りだけして、帰ろうかと思った時、奥の方からガシャンガシャンと大きな音が響いてきた。
「…なんだえ?うるさいぞ」
「すみません。奥の者の躾が、まだ終わっていないようでして――」
兄の側にいた奴隷が答える。確か、奴隷の中でも古株の方だ。名前はケットさん。
「兄様、行ってみましょう」
心の狭い兄が騒音に耐えかね、ケットさんに鞭であたる前に私は行動した。兄は慌てて着いてくる。
何故か、ドクドクと心臓がうるさい。
逸る気持ちが抑えきれない。
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