環境:最上級、内情:底辺
「シャルリア、お前ももうそろそろ自分の奴隷を持ったらどうだえ」
――そう、父親から言われて。
奴隷、と言う言葉に思わず俯いてしまう。
そんな私をどう受け取ったのかは知らないが、父親は優しく、愛しい娘に向ける声で言う。
「大丈夫。きっとお前でも満足できる奴隷がいるえ。地下のコレクションを見てくるといい」
きゅ、と衣服を握る。
吐き気がする。奴隷なんて制度も、当然のように人を物扱いする彼等にも。
始めて、奴隷を奴隷と認識したのはいつだったか。
枷を嵌められ、鎖に繋がれる人々に、平然と鞭を振るい銃で撃ち殺す血が繋がっている家族を見た時。
その様は、吐き気がするほど、醜悪で穢らわしかった。
だって、私はこんなの見たことがなくて。
実際にあったとしても、遠い世界の出来事で。
自分には一生、縁の無いものだったはずじゃあないか。
天竜人、という特別な身分。
私が前生きていた場所とは天と地ほど違いがある常識に、その異質さに、いつまでたっても私は慣れることができない。
それでも。
それでも、今の私には天竜人という価値しかない。
衣食住何不自由なく、危険も塵一つない環境を捨て、この異世界で生き延びる術なんて私には、ない。
慣れることなど一生できない。
なら、目を逸らして生きていくしかないではないか。
罪悪感という感情が、私の中でどんどん積み上がっていっても、私は我が身可愛さにそれを圧し殺す。
「――わかりました、お父様」
結局の所私も、醜悪な家族と同じくらい下劣なのだ。
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