孔雀草
赤司のことを、皆、近付きがたいと言う。
立ち姿だけで圧倒されてしまうとか、目が合ったら固まってしまうとか、近づかれたら背筋がしゃんとしてしまうだとか。エトセトラ。
いやいや、それどんな化け物だよ。
目と目が合う瞬間固まるとかメデューサかよ。そこは好きだと気付けよ。
そんなこんなで皆に畏れられる赤司の伝説()は増える一方だ。赤司は一体何者になるんだよ。怖いわ。
話に尾ひれ所かいらないものもつけてるんじゃないかってくらいの勢いだ。
確かに赤司は凄い。
私にはその一端しかわからないが、兎に角凄い奴らしい、ということはわかる。料理上手いし。
でも、それだけだ。
私にとって赤司は友達で、それ以上でもそれ以下でもない。まあ、いずれ親友レベルにはなるだろうけど。
「花畑」
「………んあ?」
ボケッとしていた。数学の授業は眠くなるから仕方ないね。私はグラフ見ただけで眠くなる。関数なんて滅べばいい。
欠伸を噛み殺しながら、緩慢に首を右側に向ける。なあに、と視線だけで問い掛ける。
赤司は人差し指を前に向け、無言で催促してくる。
人差し指を辿るように前の方を見れば、黒板にある8という数字が見えた。
「…あ」
8。それは私を示すもので、平たく言うなら私の出席番号だった。
数学の先生は、練習問題を黒板で生徒に解かせる。十問くらい問題を書いてその下に出席番号を書いていき、該当する生徒達が解く。
一人で書くわけではないので、前に出て行き易いしわからなかったら、書く時に先生に教えて貰える。そのやり方がわりと好きだ。数学は好きじゃないが。
先生は大抵、番号を順番通り書いていくのだが、今回は1から10だった。
といっても今は授業の終盤、決して前の方の番号が当たる時間帯じゃないんだが。
「もう一巡してたっけ」
「お前が呆けている内にな」
「まじか」
なにも考えず黒板写してたから気づかなかった。
手元を見れば、最初の方やった問題以外は見事に白い。
あーめんどくさいな、と思いつつ立ち上がる。
赤司のは、と見れば当然のように書かれていた。字上手いなこいつ。
前に行ってさらさらと適当に答えを書く。あらま、曲がった。まあわかるよね。いっか。
私が席に着けば、先生が丸つけをしているのが見えた。私が最後だったらしい。
「赤司、今日放課後暇?」
「珍しく今日は暇だ」
「お、駄目元で聞いたのに本当に暇だった。じゃあ放課後遊ぼうよ」
「前言ってた新作か?駅前の」
「そうそう。試しにやろうかと思って」
「わかった。付き合おう」
「やった」
グダグダと小声で話しながら、黒板を写していく。
赤司は友達だ。
わざわざ確認したことはないが、向こうも同じように思っているだろう。
ただそれだけ。
他の人がどんな認識かは知らないが、私にとって赤司はそんな存在だ。
一緒にいると楽しい。
それだけで友達になるのは十分だと思う。
そんな私と赤司の話。
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