ドキッ!イケメンだらけの〜


『お兄ちゃんがお兄ちゃんでよかったな』

「優ちゃん可愛いよ優ちゃんはあはあ」


「…美令、入るぞ」

ガチャリという音とともに綺礼が部屋に侵入してきた。

「美令、話がある」

綺令は私が見ていたパソコンをちらりと見て、何も言わず話をし始めようとした。
私の醜態を見ても何も言わない綺礼は慣れすぎてしまったと思う。逆に突っ込んでほしいが綺礼にそんな遊び心を期待するだけムダである。

ちなみに私が今遊んでいるゲームは某イケメンが集う学園BLゲーである。
今は主人公の妹、うん妹、の優ちゃんルートをやっていた。
優ちゃん可愛すぎるたまらん。

「時臣師が何者かに襲撃され、殺害されてしまった。この館も最早安全ではない。直ぐに移動する」

ミシ、と私の手の辺りから変な音が聞こえたけど、気のせい。
目の前にある優ちゃんの笑顔。可愛い。葱まみれだけど。
顔を綺礼に向ける。

…最近、よく人が死ぬなぁ。
聖杯戦争中なのだから仕方ないといえば仕方ないだろうけど、こうも立て続けだと気も滅入るってもんである。ゲームもよく中断させられるし。業腹である。

「時臣さん死んじゃったのか」

「ああ、駆けつけた時には、もう手遅れだった」

綺令の、いつものように淡々としている顔を見つめる。
何の表情も浮かばない顔。いつもと同じ表情。
それでも、長年側で綺礼を見ていた私に、綺礼の"変化"を見通すことができないはずもなく。

「ふーん。それはとっても悲しいなぁ。で、私どこに行けばいいの?教会?」

「教会も危険だ。しばらくは離れた場所にいるように手配させた」

「そっか。あーあ、外に出るの面倒臭い」

「たまには良い運動になるだろう」

「私は綺礼みたいにはりきりガールじゃないの。進路の紙にも将来はヒキニートになりたいって書いておいたし」

「それで学校に呼び出されるのは勘弁してもらいたいが」

「えへ」

驚くほど白々しい会話。
お互い、隠し事、嘘、裏しかない会話が、妙に楽しかったりするのだ。
私も綺礼も、結局は似た者同士なのである。

まあ私は、綺礼がどこで何してようが、何だっていいのだが。
綺礼は綺礼のままで、その事実は揺らぎないものだから。
ぶっちゃけ私にはあんま関係ないし。ゲームとかの邪魔するんじゃなきゃね。

「わかった。あーダルいなぁ」

んー、とのびをして、パソコンの電源をきる。

おそらく、綺礼はわかってしまったんだろう。
自分が求めてやまないもの。癒えない渇きを潤す糸口を。


時臣さんは一流の魔術師だ。努力家で、常に最善を求めること忘れない。ギル様みたいな凄いサーヴァントもついている。

でも、時臣さんはうっかり屋さんだ。
こんな私を、この館に住まわせてしまうくらいには。
お人好しなのか、自信家なのか。

時臣さんにはこそこそとした姿勢が足りない。
優雅になんて言っている間に、肝心な所で掴まなければいけないものを掴みそこねてしまう。見えてない所に信用を置いて、どうなってるのか確めもせず、気づかない。
あれは、そういう人だ。
だから、その結末がどういうものであったかなど見なくてもわかる。

「きれー、きれー」

私は椅子から立って、ドアの近くにいた綺礼を手招きする。
おとなしく近寄ってきた綺礼に、私はぎゅー、と抱き着いた。
一瞬硬直した綺礼は、しかし私の体を引き剥がそうとはせず、ただ私の頭を撫でた。

「ほしいものは、見つかった?」

その問いに、綺礼は私の頭を撫でながら答えた。

「…明確では、ない。しかし、切っ掛けは掴んだ」

そっか。

なら、私にはどうしもうもできない。
私は教える気が更々ないのだから。綺礼が自分で気づく分には、手出ししないけど。
それがかの英雄王の誘導だろうと、それはそれで。

「私さぁ、綺礼にどんなことされても全く悲しくならないだろうけど、綺礼が死んだら、泣くかも」

「そうか」

そう言った綺礼の表情は抱きついていて見れなかったけれど、声は僅かに愉悦に濡れていた。

それで充分。
私と綺礼の関係なんて、綺麗なものでなくていい。
下心があるなんて、お互い様なのだから。





とりあえずこれからハンサムコンプしようかな。










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