真面目話


ただいま、と声をかけて家に入る。

久しぶりに、ほんっと珍しくも家の外に出たので、へとへとである。やっぱ私は家の中がいい。むしろ出たくない。



「あ、綺礼じゃんただいまー」

ぼんやりと、暗闇になじみすぎてわからない立ち姿で綺礼がいた。わかりにくっ。衣服が黒っぽいから同化するんだよちょっとびっくりしたじゃん。

「…美令」

「ん、なに?」

真剣な目だった。まあ綺礼はいつも仏頂面でへらへらすることはないけど。
いつもよりももっと真剣味を増した雰囲気である。



「父が、死んだ」



…………。

感情を押し殺したようなその声に、思考が止まる。

「拳銃で殺されていた。恐らく、聖杯戦争のマスターだろう」

え、殺されたって、あの人が?

啓蒙な信仰家。正しさの塊のような人。綺礼を信頼していた。綺礼は立派な信仰心の持ち主で、誇り高い我が子であると、昔から、信じ込んで、いて。

「―――それ、綺礼が発見したの?」

す、と目を細くして聞く。真剣スイッチ入った。ここからはおふざけ一切無し。

「…ああ。私が発見した時には既に手遅れだった」

綺礼の目にうっすらと拍子抜けだ、とでもいうような感情が宿ったのを見逃さない。
多分、私がもっと驚いたり悲しんだりすると思ったのだろう。

「ていうかさ、確か、綺礼って当分の間自宅待機命じられてるんじゃなかったっけ?協会にいなかったの?」

ともすればなんで現場にいなかったんだ、いたら助かったかもしれない、と責めているような事を言ってしまったが、ただの確認である。
今回の戦争に関して知識が余りあるわけでなく、聞き齧った程度にしか情報を持っていないから、綺礼を責める権利は私にはない。と、思う。

「用事で出ていた。
…父と問答をする機会は、これでもう無くなってしまったわけだ」

後悔を滲ませる口振り。
それを聞けば、父が死んだのを純粋に悲しんでいるように聞こえる。

「問答、ね。そうだなあ、私も久しく、まともに会話したことなんてなかったかも」

「お前がいきなり引きこもり出した時も、父は随分驚いていたな」

そう、だったな。どうして、なんで、って散々聞かれたけれど、私は全てそれを適当に受け流していた気がする。
あの人が亡くなった後でも、ちゃんと話そうとは思わないけど。
真面目で、実直だったあの人に私の話なんかしても、理解できないのがオチだろう。

「綺礼はなんでいきなり話なんてしようと思ったの?」

聞いた問いに、綺礼の瞳が僅かに揺れる。

「…私は、今まで父には決して理解されないと、思ってきた。だが、そう思い父と真剣に話をすることをしないできたのを思い出したのだ、だから」

「腹を割って話してみようと思ったと」

「…ああ」

迷っている。
綺礼は今、凄く迷っている。

己の本質に戸惑って、自覚するまいとしている。
綺礼は、どうして打ち明けようなどと考えたのか。
もし、綺礼が全て打ち明けたらあの人がどう思うか。
誇り高い自分の息子に絶望するだろうか。信じていた我が子に裏切られたように感じるだろうか。

予測でしかないが、多分、そんなとこだろう。
綺礼は、無意識にそういうものを求めている傾向がある。
それが綺礼が気付かないようにしている、自分というやつ。所謂起源というものだ。

きっと綺礼一人なら、目を逸らして、逃げて、物足りない歯痒さを抱えたまま、一生目を逸らしたまま生きていくのだろう。

私はそんな綺礼が好ましいし、このままでもいいと思っているから、王様の手伝いなんてしてあげない。

「そっか。お葬式は、いつあげるの?」

故に、ヒントなんて与えてあげないのだ。










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