七人

「…兵助、そこまでにしときな」

あ、勘ちゃんだ。これまで話に一切関わろうとしなかった勘ちゃんだ。

勘ちゃんの一言で、これまで辛辣に私の心を抉っていた久々知がはぁ、とため息をついて、こちらを見た。
いや、ため息をつきたいのはこっちだよ。

さっき久々知がこちらを見たとか言ったけど、現在私は机に突っ伏しているので、気配を感じただけだ。
言葉攻めしてる最中もずーっと手元の本から顔を上げなかった久々知この野郎が、勘ちゃんの一言でこっちに向くってなんか屈辱。

「…ウタ」

「…なによ」

居心地悪そうな久々知の声。うわ珍しい。

「ちょっと言い過ぎた。ごめん」

誰コレ。
私五年間一緒に学園生活送ってて始めて久々知に謝られたんだけど。
レアってレベルじゃねえぞ!

「久々知がデレた…」

「しね」

「さーせん」

やっぱり久々知は久々知でした。

てかこいつ私に対して異様に口悪いよね。しかもずっと無表情だし。いじめいくない。

「で、結局何があったの?」

勘ちゃんが話題を戻してきた。
こういう役割だよね、勘ちゃんは。さすが学級委員長。

勘ちゃんが完全に話を聞いてくれる態勢に入ったのを見て、久々知も開いていた本を閉じた。

「何があったって聞かれても…。富松が最近私を避けてるような気がするだけで…」

やばい、口に出したらまた気分が落ち込んできた。鬱だ…。

「明らかに嫌われ「シャラアアアップ!それ以上言ったら泣くからね!恥も外聞もなくいい歳こいて泣きわめくぞ!」

こいつは話を聞きにきたのか笑いにきたのかどっちなんだ!久々知てめえ。

「何か思い当たることとかないの?」

そんなことは一切合切スルーした勘ちゃんが、質問をしてきた。
もう私の味方は勘ちゃんだけだ…。

「思い当たることとか言われても…。そもそも最近まで、予算会議の準備で忙しかったし」

山を越えたので、久しぶりに会ってみたらあんなことになってしまったというわけだ。富松が私を避けるという…そうだ、死のう。

「忙しい中でもどうせ富松に会いに行ったりしたんだろ。その時何かやらかしたんじゃないか」

久々知断定するの止めろ。語尾上げろ。?感じさせろ。
いやまあ、そうですけどね。どんぴしゃだけど素直に認めたくない。
久々知に対するせめてもの反抗として、顔を背けてやった。

「左門迎えに行く時に会ったりしたけど…その時はほんっとーに修羅場だったからたいして会話らしい会話もしてないし…」

久々知と勘ちゃんは揃ってお互いの顔を見合わせた。
そしてコソコソと小声で話し合った後、こちらに向き直り私をじっと見た。

「な、なに?」

なぜかどもってしまった。
おまえら眼力凄まじいんだよ!ビビるわ!

「ちょっとおれたちの名前呼んでみて」

「五人な」

「は?なんで?」

「いいからいいから」

「早くしろ」

久々知の命令口調にいらっとしつつ、二人の顔が真剣なので、ちゃんと従う。

「久々知、勘ちゃん、鉢屋、雷蔵、竹谷」

五人と言われて咄嗟にいつもの仲良し五人組にしたんだが結構かしら。

「なんで勘ちゃんと雷蔵は名前呼び?」

「なんでって言われても…」

え、なに、久々知そういうの気にする方だっけ?男子って名前か苗字なんてあんま拘らないんじゃないの?現に五年間ずーっとこれだけど、一度も言及されたことなかったし。

「勘ちゃんは小さい頃から勘ちゃんだし、雷蔵はオーラが違うし」

癒し担当ですから。
もうこれで定着してしまったので、今更変えるのはとんでもなく違和感があるだけで、特にたいした意味はないんだけど。

「じゃあ三年の五人組言ってみて」

「…富松、左門、次屋、三反田に浦風、あとい、伊賀崎だっけ?」

竹谷が孫兵孫兵言ってる のは覚えてるんだけど苗字があやふやである。
あんま関わりないし、あの子人嫌いだし。近付かないからわかんないや。

「それだ」

「はあ?」

それだって、なにが?

「一回、騙されたと思って富松のこと名前で呼んでみなよ」

「…え、なんでよ」

「いいから」

意味がわからない。今回の事件に富松を名前で呼ぶことのなにが関係あるというのか。
まさか今更呼び名を気にしてるということでもあるまいし。
でも、勘ちゃんと久々知が珍しく真剣に考えてくれたんだし、やってみるか。




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