十人
「あーやってるねー」
場違いなほど明るいその声に、思わず俺は目の前の出来事から目を逸らした。
「…尾浜先輩?」
そこには、普段あまり関わりのない先輩がいた。
というか、五年生というのは関わる機会が薄いので五年生のことはよく知らない。確か、孫兵のとこの委員長代理が五年生だったような気はするが。
「やっほー富松」
にっこりと笑う先輩。平和だ。
「こ、こんにちは」
思わずぺこりと挨拶してしまう。
「…って、そうじゃなくて!あ、あれってなんなんですか!?」
目の前の惨状。
綾部喜八郎とウタ先輩がなぜか戦ってるこの状況。
しかもお互い無言。綾部喜八郎だけならまだしも、あのよく喋るウタ先輩が無言で淡々と攻撃を繰り広げている姿は恐ろしい。ウタ先輩ちゃんとくのたまだったんだな…とか失礼なことを思ってしまった。
「あーあれ?あれは一学年違いの学年同士は仲が悪いという不文律が忍たまとくのたま間でも適用された例だよ」
そ、そうか。なるほど…いやいや、納得してどうするんだ。
「で、でもあれ仲が悪いってレベルじゃなくねえですか?あのウタ先輩が何も言わずに武器取り出すとか相当ですよ」
"あの"という言葉に富松のウタに対しての認識を垣間見た勘右衛門だったが、当の富松はそんなことを感じ取る余裕が無かった。
「いやあ、仲が悪いの究極系というか、お互いがお互いのことを嫌いすぎてある意味両思いみたいな」
どんな関係だそれは。
嫌な両思いもあったもんである。
「おれが覚えてる限り、初めて顔を合わせた頃からこんな感じだったよ?一目惚れならぬ一目嫌い?」
嫌な出会い方だなぁ…。
「とりあえず、お互いある程度鬱憤晴らしたら自然に解散してくから、言いたいことあれば後にした方がいいよ?」
言いたいこと…。
ないわけじゃ、ないけど。
でも、こんなことを気にしてるなんて、と思われたら。
自分でも女々しいと思うのだ。他人が聞けば、尚更だろう。
「んー…。おれが思うに、あんま深く考え込まないでいいと思うよ?」
黙りこんだ俺に、何かしら思うところあったのか、そのまん丸な目を向ける尾浜先輩。
「ウタは(君のことに関しては)単純だし。言いたいこと言えばいーと思うよ」
ね?とにっこり笑う尾浜先輩。
その警戒心を全く感じさせない笑顔に、思わず俺は頷いてしまった。
「……はい」
「ん。がんばれ」
尾浜先輩は俺の頭をよしよしと撫でて、ふらっとどこかへ行ってしまった。
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