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「………………。」
布団虫は音を鳴らさない。
普段はこれでもって位にうーうー唸っている布団虫だが、本日はとても静かである。
「………おい、ガゼル。」
へんじがない。ただのふとんのようだ。
「…………風介。」
「うるさい黙れ。」
しーん。
「あれ、ガゼルはまた布団?」
厄介なヤロウが来やがった。
「ガゼルー。」
「私はただの布団だ。」
「じゃ、布団くん。」
「私は布団なので頭が赤い尖ったやつとは話してはいけないという法律に縛られている。」
さりげなく自分も入ってないか?と思う晴矢。
「なにそれ!?
まぁ、引き分けだったことは残念だったよね。」
ああコイツ一番避けたいけど避けられないことをさらっと言いやがった!!
「次は頑張ってね。次なんて無いかもだけど。」
悉く人の痛いところをずしずし刺していくヤロウ、それが基山ヒロトである。
「………………知ってるか、グラン。」
低い、低い地獄から響いてくるような声。
ねえしってる?と可愛らしく聞いてくる某豆みたいな犬とは大違いだ。
「ワックスって付けすぎると禿げるらしいぞ。」
「え、」
「なんでも髪から皮膚に浸透したワックスは、汗と反応して髪に有害な成分を作り出すらしい。」
大嘘である。
確かにワックスは髪に良くないが、それが禿げることと関わりがあるのかは……うん、無さそうなような有りそうなような。
「早くワックス落としてきた方が良いんじゃないか?」
トドメの一言で、グランはすっとんで行った。洗面所の方へ。
「………………。」
再び静かになる布団虫。
こいつ、案外余裕じゃねぇ?と思う晴矢なのであった。
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