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「やーやーこんにちはケイちゃん」
真っ白になって気絶したと思ったのに、目の前に知らない男がやけに親しげに話しかけてくる状況ってなんなんだろうか。普通に考えると誘拐だよな。
見渡すと、表現しづらいよくわからん空間が広がっていた。
なんか、うん。例えようもないような空間、というか部屋みたいなところだ。
なんか、白い。
その一言に尽きる。ひたすらに白色が広がってるだけ。当然、物や人もいない。
「こんにちは」
一応、礼儀として挨拶はしておく。
というか、よく考えなくても凄い怪しくないか?この人。
「いきなり呼んじゃってごめんねー?俺は君をここへ送った者だよ。人には神様って呼ばれてるかも」
「はぁ」
神様だった。いやいや、これなんて夢小説?どうしたよ私。私そんな夢とか読まないんだけどなあ。むしろ2525してるし。
神様と名乗る男の外見は、見たところ普通の人間っぽかった。というか、特徴無さすぎて挙げるべきとこがない。私、この人がどんな姿してたかすぐ忘れる自信あるわ。
「そろそろ君もここに慣れてきたと思うから、今日は君にお願いしに来たんだー」
にこにこと笑いながら言う神様(仮)。
なんか、色々聞くべきことがあるはずなのに全く聞けない。
「君に、この世界を救ってほしいんだ」
「はぁ」
…ん?
あれ?なんか思わずはぁとか言っちゃったけど何気に凄いこと言われてないか?
「あの、それはどういうことで?」
にこにこと笑ったままの顔を見つつ、問う。それにしても表情が動かない人だ。
「今この世界には、主人公がいないんだ。物語の主役がね」
サトシ呼んでこいよ。あいつのピカチュウで大抵はごり押しできるだろ。
「主役がいないのに、世界は着々と動き出していっている。このままじゃ、あの男の望み通りになってしまう。だから、どうしても君に止めて欲しい。
世界が滅んでしまうかもしれないんだ。協力してくれないかな?」
「せっかくですがその話はお断りさせていただきます」
きっぱりとそう言うと、今までにこにこしていた男の表情がピシリと固まった気がした。というか固まった。多分。
「いやいや、世界を救ってと聞かれてすぐにイエスの返事なんて普通できるわけないでしょ」
自称だとはいえ神だと名乗る人にため口って、と思ったがこの際気にしないことにした。
正直、どこの厨二だって話だ。
「勇者様の代わりなんてどこにでもいるし、誰でもなれるよ。私にはその資質も、資格もやる気も力量もないし。世界が滅ぶからって、私に何かができるわけないかな」
勇者(笑)なんて突き詰めればただのニートだしな。自由業みたいなもんでしょ。自由業は保険とか辛いんだぞ。
私が一人でうんうんと納得していると、男の人はにこにこしたまま、けれど若干の苛立ちを込めるようにため息を一つ、ついた。
「ホント、なんで巧くいかないかなあ」
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