教師というのは生徒の模範にならなければならない。
もし立ち止まって途方に暮れてしまった時には、助言を与え生徒を正しい道へ導かなければならない。
平等に、対等に。
それが教師のあるべき姿。
その関係に決して特別な感情を持ち込んではいけないのに。
わたしはあの子のことが、
もうずっとナミちゃんを見ていない。
わたしの授業も受けず、部活にも顔を出していない。
これで良かったんだわ。
なにもかもが出会う前のふりだしに戻ったのだから。
それでも、頭では理解していても心はそれに適応していない。
ナミちゃんがとても心配。
いいえ、ほんとは心配なんて言葉で片づけられない想いを抱えている。
慣れていくしかない。
思い出を風化させて、いつか忘れるその日まで。
あのときナミちゃんを突き放したことを悔いているのかどうか、なんて考えても意味がないこと。
感情を中心に据えて物事を考えることはできない。
きっとナミちゃんを今以上に傷つけてしまうから。
それだけは、したくない。
"わたしが教師でナミちゃんが生徒である以上、その先に未来はないの"
もう一人のわたしが囁く。
わかっている。
わかっているわ。
だからもう放っておいて。
もう涙を流すのは疲れたの。
わたしは感情と引き換えに正しい道を選んだのだから。
昼休みの終りを告げるチャイムが鳴り、資料室を出て受け持っている1年生の授業に向かおうとしたら
「ロビンせんせーい」
にこにこしながら1年生が駆け寄ってきた。
「なあに? たしぎさん」
「荷物、重そうですね
持ちますっ!!」
しゃきっと背筋を伸ばし、はきはきとした口調でそう言った。
「大丈夫よ、このくらい」
「いえ、そういうわけには
困っている人がいれば、助けないと気が済まないんですっ
それに今からわたしのクラスで授業ですよね」
別に困っていないのだけれど、ここはこの子の好意に甘えさせてもらうことにする。
「それじゃあお願いするわ
ありがとう」
にっこり笑ってお礼を言う。
たしぎさんに荷物を持ってもらい、改めて教室に向かおうとしたら、廊下の突き当たりにある非常階段の扉が開いた音がした。
思わず反射的にそちらを向いたら、出てきたのはナミちゃんで。
すぐに視線を反らした。
「先生、どうかしましたか?」
「いいえ、なんでもないわ
………行きましょう」
微笑んでごまかす。
久しぶりに目にしたナミちゃんは、どこか儚げで虚ろな目をしていて。
わたしがナミちゃんをそんな風にさせてしまったと思うと、いてもたってもいられなくなった。
抱きしめてあなたが好きだと
他になにもいらないと
伝えたい想いに必死に蓋をする。
わたしにできることは、今みたいにあなたに背を向けて遠ざかることだけ。
どうかわたしのことは忘れて
あなたにはもっと近くに、あなたを見つめている人がいるわ
いつかこの日々が過去になるそのときが、とても待ち遠しい
<あとがき>
たしぎをモブみたいな扱いで出してすいません。
なんというか、出来心です。
ロビン先生は相変わらず我慢の連続で、もはや修行の域に達しているような気がします
ビビが振られたことを知らない先生はこれからどうなるんだろう
いや、どうしよう
← →