名残 3

「はっ、あ、ああっ!」
 漸く与えられた感覚に、一際大きな声を上げて椿は仰け反る。乱暴に蠢く指に快感を覚えて、強く安形に縋り付いて声を上げた。仰け反って甘く誘い声を上げる咽へと、安形は誘われるまま唇を落とす。強くそこを吸い上げて白い肌に跡を幾つも刻みながら、奥へと指を進めて押し広げる。その間中、椿は嬌声と安形の名を叫び続け、求め続けた。
「やっ・・やぁっ! ・・・あがたさっ・・あがたさんの、が・・・欲しっ・・・・」
 嗚咽すら混じる声に、我慢出来ずに安形が指を引き抜く。その感覚にまた震えた脚を更に持ち上げて、安形は自分の袴を手繰り上げた。既に固くなっている己を余裕無く取り出し、一気に指を沈めていた場所へと突き入れる。
「ああっ、あっ!!」
 安形を抱き締めるように腕に力が籠り、椿は欲望のままに声を上げて安形の背中に爪を立てた。激しいまでに響く声に煽られて、安形は椿の左脚も袴ごと掴んで高く持ち上げる。
「んぁっ、ああっ、ぅあ!」
「なぁ・・・」
 いつも以上にきつく安形を締め上げる内部へと強く自身を打ち込みながら、熱に浮かされて掠れた声で安形は囁いた。
「なぁ、椿・・・オレが何でこんな事するか、分かるか・・・?」
 囁きに答らしい答など返せずに、椿はふるふると小さく頭を振る。ただ安形に溺れて声を荒げ、何度も爪を立て続けた。安形が腰を突き上げて更に激しく身体を動かせば、強くなる快楽に椿の瞳から幾筋も涙が流れる。意識も白く遠き、声も届かないほどになる頃に、安形は漸く答を口にした。
「こうやってオレが死ぬ程お前ぇを欲して、」
「ああ、あっ・・はっ、ああっ、うぁあぁっ・・・」
「お前ぇがオレを求めねぇなんて、」

    不公平だろう?

 掠れて僅かに響いた声は、椿自身の喘ぎに掻き消される。元より知らせるつもりの無い心。聞かれなかった事に満足し、安形は一度だけ目を閉じて椿の頬へと口付ける。そのまま舌先で涙を拭い、首筋に印を残し、何度も激しく腰を動かした。時折、映し出される身体の淫らさに、安形は追い詰めれ、限界へと導かれていく。
――唯一、お前ぇだけ、
「あああっ、あっ、ぅじろ、さっ・・・」
 響く呼び名が変わっていく。同時に安形を包む内側が、強く安形を締め上げた。
「・・・っ・・そうじろぉさんっ、そうじろうさんっ!」
「・・・・佐介、お前ぇだけが、」
 名が、声音が、熱く流れる涙が、肌を濡らす汗が、罅割れて枯れた心を濡らし埋めていく。
――オレをこんな気分にさせるんだ。
「あああっ、あっ、ああああっ!!」
 昂ぶった想いのままに最奥へと自身を叩き込んだ瞬間、椿が大きく声を上げて絶頂を迎えた。限界まで絡んだ内壁のきつさに、安形もそのまま中へと欲望を吐き出す。それを受け止める内部は、何度も痙攣を繰り返しながら最後の一滴まで飲み干そうするかの如く、脈打つ安形を包み込んだ。
「・・・・ぁ・・は、ぁん・・・」
 吐息のような喘ぎを最後に、椿の身体から完全に力が抜ける。それを抱き止めながら、安形は未だ繋がったままで地へと膝を突いた。
「・・・・・・やべぇな。また、やっちまった」
 ぐったりと自分へと寄り掛かる椿を見ながら、安形は嘆息混じりに言葉を漏らす。日に二度も気を失う程に交わったとなれば、後に椿から報復が有るのは確実だった。苦笑を唇に刻み、それでも安形の手は優しく椿の頭を撫でる。
「でも、よ」
 届かないのを知りながら、安形は椿へと言葉を投げた。
「オレは心も身体も、片恋だなんて、ごめんなんだよ」
 誰よりも溺れる相手に、何度も味わった想い。それを苦々しく思いながら、安形は優しく唇に唇で微かに触れた。

  <終>

2011/03/17 UP
拍手→clap


[閉じる]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -