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 いつもは安形へと書類を渡すその場所で、椿は安形の右腕に抱えられるようにして携帯を握り締めていた。前を完全に開いたズボンの隙間からは安形の手のひらが忍び込み、太腿の内側をゆっくりと撫で上げている。時折そこを強く揉めば、滑らかな肌が震えで応えた。それを目を細めて眺めながら、安形は既に半ばまで脱がせたシャツから覗く二の腕に歯を立てる。それにもまた、ぴくりと肌が応えた。
「・・っ・・・・う・・・」
 皮膚に乗る歯の感覚に小さく呻きながらも、懸命に伸ばされた指先が何とかキーを押そうと携帯の上を滑る。噛んだ部分を吸い上げれば身震いしながら熱い息を吐くくせに、次にはそれを飲み込んで震えを抑えながら椿は一つ数字を選んだ。その瞬間を狙い、安形は椿の耳に唇を動かすと、そこへと舌を差し込む。
「んっ・・・」
 声を上げて仰け反った所為で、椿の指はそこから外れて明後日の場所へと逃げた。儘ならない自分の身体に悔しさから瞳を歪めても、椿は流れそうになる涙は歯を食い縛って堪えられていた。音が聞こえる程に噛み締めた歯の隙間から、獣染みた息が漏れる。嗚咽に近い掠れた声を響かせて、それでもまた、椿は一つのキーを選んだ。
「・・・・・・そろそろ、数字適当になってきた?」
 打ち込まれた数字を眺め、安形は椿の耳に唇で触れたまま、そう囁く。耳管に直接響く振動に、椿の身体が小刻みに震えた。同時にきつく閉じられた瞳の端に涙が溜まるのを見ながら、安形は満足気にズボンの中から左手を抜き出す。
「・・・っ・・ふっ・・あ・・・・」
 動かした指先で椿の唇に触れ、噛み締めている歯列を割って指を二本差し込んだ。熱くなった舌を絡み取れば、口腔に溜まった唾液がそこを濡らしていく。指を伝って滴る液を感じながら、安形は今までに打ち込まれた数字の羅列を反芻した。
「身長に体重、後は・・・住所とか家電の末尾? 意外と椿、オレの事色々知ってたんだな」
 どれだけ椿が自分を知っているか、引き出した情報に満足を覚える。
「・・・けど、ここまで、か」
 けれどもそれが情報の塊でしかない事に歯噛みしながら、安形は右腕の力を抜いた。支えを失って机の上へと崩れ落ちた衝撃に、椿の右手が携帯を取り落とす。それでも左手の指は、携帯のキーに縋っていた。机に伏して安形の成すが儘に口腔を侵されて震わて、けれど指先にだけは力を込めて椿はまた決定のキーを押す。それでも返ってくるのは、否定を示す画面だけだった。
「あ・・・・・・」
 その画面を見た椿の瞳に、小さな絶望の色が浮かぶ。先から何度目になるか分からないその画面に、琥珀がまた涙を滲ませた。力の抜けた身体に覆い被さって、安形はそれを覗き込む。
「もう、終わり?」
 咽の奥で笑いながら囁いて、安形は唇から指を抜き出した。糸を引くその向こうで、琥珀の中の絶望が悲嘆へと色を変えて安形に向けられる。それに微笑み返す安形に何の応えの無い数秒を置いて、椿は目をきつく閉じると再び指先に力を込めた。諦め悪く携帯に縋り付く姿を眺め、嗤いを強めると、安形は右手を椿の下肢へと動かす。脇腹から素肌を這って、今度は下着の中へと滑り込んできた安形の手に返ってくる肌の強張りを意にも介さず、安形の手は椿の下肢を露にしていった。それでも安形は椿の前に触れる事はせず、代わりに椿の脚を軽く持ち上げる。椿の身体がそれを感じてぴくりと震えた瞬間、いつの間にか動いていた左の指が、曝された後孔に触れた。
「・・・ああっ!」
 入り込んできた指の感覚に、思わず椿は身体を仰け反らせて喘ぐ。弾かれたように動いた指先がぶつかり、衝撃で携帯が机の上を転がって逃げ出した。指を動かしながら安形が視線を向ければ、視界の中で椿は必死に携帯へと手を伸ばす。
「あっ・・やっ・・・」
 指先が携帯に触れる寸前、安形は指を奥へと押し込んだ。慣らされた身体が反応して、快楽に大きく跳ねた指がより遠くへと携帯を弾く。なおも動いた指先を制止する代わりに、安形は椿の下肢に身体を押し当てた。安形の行為に反応を示していた椿自身の先端が机に擦り付けられて、悲鳴染みた声が椿の唇から上がる。
「・・いぁ・・・や・・や、だっ・・・・」
 掴んでいた脚を上下に何度も動かせば、椿の悲痛な喘ぎが短く響いた。沈める指を本数を増やし、内壁を激しく擦って更に追い上げる。指が抜き差しされる淫猥な音に混じって、椿自身の先端が液を滲ませて机を擦る音が部屋に響いた。
「やっ・・まだっ・・・まっ・・だ・・・・」
 諦めずに伸ばした椿の手は、目標に届かずに終わる。眉を歪めて、また手を伸ばして。届かずに震えるだけの己の手に、椿の瞳から涙が落ちた。堰を切ってあふれ始めた涙は視界を歪ませ、目標さえも朧気に隠す。唯一の希望を見失い、椿は子供が駄々をこねるように何度も激しく頭を振った。
「うぁっ、やっ、やだっ、まだ・・・まだっ!」
 叫び声を上げて指先を躍らせる椿に、安形は唇を寄せて項を食んだ。肌を走った別種の快楽に、椿は机を爪を立てて掻き毟る。あやふやに歪む視界の中でも懸命に指を動かす椿の身体を、安形は容赦無く机へと強く押した。
「ああっ、あ、あっ!!」
 激しく机と自分の身体に圧し潰された刺激に、大きく声を上げて椿が仰け反る。椿はびくびくと身体を震わせて快楽に眉を歪ませると、自ら吐き出した精液に自分の腹部を汚しながら机の上へと身体を投げ出して、何度も荒い息を吐いた。
「残念だったな」
「・・・・・・っ」
 低く響いた安形の声と乱暴に抜かれた指の感覚とに、何処か遠くを見詰めていた椿の瞳がはっと見開かれる。腹に纏わる粘つく体液の感覚に希望の糸を断ち切られ、力の抜け切った身体が床へとゆっくり沈んでいった。


2012/05/17 UP
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