明かりも灯さない部屋で、チラつくパソコンの画面だけが安形の顔を映している。薄く照らされた顔は真剣にキーを叩き、応えて画面上の黒いウィンドウに白いアルファベットが流れ続けた。最終のエンターキーを叩き終えれば、後は勝手に文字が躍り始める。それを眺めつつ、安形はイスの背凭れに腕を掛けると、一度身体をパソコンから離した。
「・・・・・・サイテーだな、コレ」
 自分の行動に吐き気を覚えて、そんな呟きを漏らす。流れ続けていた文字が不意に止まり、代わりにピリオドが幾つか並び、そしてアンダーバーが点滅を始めた。安形が視線をずらせば、パソコンから伸びたUSBケーブルの先に繋がった携帯が、呼応するかの様にチカチカとランプを点灯させている。
「意外と、凶暴だったんだ、オレ」
 ぽつりと漏らされた言葉に、黒い画面が問い掛けてきた。この後、どうするのか、YとNとで答を求める。躊躇い無くYを選べば、再び白い文字が画面を覆った。安形の口元に、笑みが浮かぶ。
――これで、いい。
 流れ続けていくアルファベットが止まり、終了を告げる機械音が響いた。企みが一つ終わり、表情だけでなく声を漏らして安形は笑う。
「教えてやるよ、椿。快楽と、それから・・・」
――今日の絶望が、明日のそれより、深くないって事を。
 乱暴にケーブルを抜き、携帯の中身を確認して、安形はまた笑い声を響かせた。それを遠く客観的な気分で聞きながら、安形は手にしていた携帯を枕元に放る。自身もまた、明日へ向かう為にベッドへと身を投げ出した。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 翌日の放課後、他の人間が帰宅した後の生徒会室で、安形はいつも自分が座っているイスを見下ろしていた。その視線の先では、今は椿が安形の代わりに腰掛けている。蒼醒めた顔を緊張で強張らせ、今にも泣きそうな目で安形の言葉を待っていた。
『話があるから、残ってくれ』
 安形のその言葉に逆らえるはずもなく、椿は言われるがままに一人残り、そして今安形のイスへと座らされている。きつく拳を握り締めて俯いたまま震えている椿に、安形は無言で手を伸ばした。
「・・・!」
 怯えてギュッと目を閉じた椿の頬に手を添える。微かに震える柔らかな頬を楽しみながら、安形は漸く口を開いた。
「椿・・・昨日はごめんな」
 思い掛けない安形の言葉に、椿が目を見開いて顔を上げる。昨日の事が間違いだったと信じたがっている瞳に喜びが溢れ、唇に微笑みが刻まれ掛けた。
「お前ぇ、昨日の最後、イッてねぇよな?」
 投げ掛けられた言葉に、椿の表情が微笑みのまま凍り付く。その顎を乱暴に掴み、安形は顔を覗き込みながら嘲った。
「だからさ、今日は椿が悦くなるようにしてやるよ」
「会っ・・・」
 叫ばれ掛けた呼び名は、突然の口付けに遮られる。こじ開けられた歯列の間から舌が入ってくる感覚に、椿の目が閉じられ、眉間に深く皺が刻まれる。
「・・・っ・・・ん・・・・・・」
 絡まる舌の間から苦しげな声が漏れ、椿の手が縋る様に安形のブレザーを掴んだ。安形は片目でそれをチラリと見ると、今はその拒否を容認する。互いの舌が触れ合う事で染み出る唾液を掴んだ顎を上向かせる事で椿の咽に流し込むと、受けた事の無い行為に戸惑って舌が踊った。息を止めてそれを口内で受け止めている唇の端を唾液が軽く濡らすのを見て、安形は一度椿を解放する。
「椿、零さないで飲んで」
 熱い吐息が掛かる距離で、安形は囁いた。強要を強くするため、顎に指を掛けて更に顔を上向かせる。そのままで数秒の時間、椿は躊躇ったまま動けずにいた。微笑みを浮かべる安形から無言の圧力を感じ、椿はまたきつく目を閉じる。他者の手で反らされた白い咽がゆっくりと上下し、液を飲み下す音が響いた。
「・・・・・・ふっ、ははっ!」
 その光景を眺めていた安形から嘲笑が音を立てて零れ、椿の肩口に安形の頭と共に降る。
「本当に飲んでら、ははっ」
 続け様に投げ付けられた言葉に、安形の間近で歯を食い縛る音がした。それでも堪え切れず、屈辱に身体を震わせる椿の目から涙が落ちる。
「・・・っ・・・ぅ・・・・・・」
 安形のブレザーを握り締める拳を震わせながら、椿は天井を仰いだまま嗚咽を押し殺して静かに泣いていた。噛み付きそうになる欲望を抑え付け、安形は椿の頬に舌を這わせて涙を舐め取る。逃げ掛けた頭を逆から手で覆い、逃れられない様にして涙を辿って目尻を嘗め上げた。
「安心しろよ。ちゃんと気持ち良くしてやるから、さ」
――この後の絶望の為にもな・・・
 くすくすと小さく笑えば、拳が色を無くす程強く握られる。縋るかにも思える仕草で、椿は黙ってまた新たな涙を流した。舌でそれを受け止めながら、きっと今椿の頭の中は自分で占められているのだろうと考えれば、安形の下肢が熱を持ち始める。
「嫌って位、悦くしてやるよ」
 囁いて、安形は椿の下肢へと手を伸ばした。

2011/12/07 UP
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