「あっあ、ああっ!」
 合わせていた唇が離れ、空気を震わせて今まで以上の絶叫が響く。息も出来なくなったのか、椿は安形のものを半ばまで飲み込んだまま、身体ごと咽を震わせるだけで動けなくなっていた。
「いっ・・・流石に、キツいな・・・」
「いぁっ、あっ・・・!」
 拒絶するかの様にきつく口を閉ざす後ろに、安形が身体を捻って自身を食い込ませるが、椿の声が漏れるだけで効果は無い。
「椿・・・力、抜け・・・・・・」
「・・・ぅ・・・ぅあ・・・ム、リ・・・・・・」
 安形の肩をシャツ越しに強く握り締める椿の瞳から、改めて涙が零れ始めた。小さく首を左右に振って、目を閉じて、大粒の涙を流す。
「・・・ま・・・せ・・・・・・」
 掴むシャツの皺をより深くして、悔しげに歯を食い縛る唇から驚く様な言葉が漏れた。
「・・・すっ、みま・・・せっ・・・あっ・・・ムリ、でっ・・・・・・」
 謝罪の言葉を口にして、椿はまた首を横に振る。涙を流し過ぎて赤くなった瞳が薄く開けば、そこは確かに許しを請うていた。そこに、無念ささえ見える気すらする程に。
――ああ、
 考えながら、安形は硬くなった椿の身体に手を這わせる。自分の欲を一時抑え付け、びくりと震えた身体のラインを辿った。
「ふっ・・・うっ・・・・・・」
 しなる身体の胸の部分、紅い突起に指で触れれば、熱い吐息と甘い声が響く。もう片方の手を下肢へと伸ばし、快楽を呼び起こしてやれば、そこは素直に反応した。
――もう大分、訳も分かんなくなってんのかな・・・
 安形の手に翻弄されて、椿の身体が融ける様に柔らかさを帯びてくる。軽く安形が腰を動かせば、少しも先に進まなかったはずの後ろが僅かに安形を飲み込んだ。
「・・・いっ・・・すみ、まっ・・・ごめ・・・・・・」
 痛みに声を上げ、続けて何度も椿は謝る。それを見ながら、安形はぼんやりと、何でこいつは謝ってるんだろう、と思った。
――すみません、止めて下さい?
 考えながらも手を動かせば、固くなった粒が指の腹を押し返してくる。それに応じて椿の下肢も、やはり固さを増していた。
――ごめんなさい、許して下さい?
 震える身体が、安形を深く咥え込んでいく。痛みと快感に漏らされる声に遮られる言葉を推測して、安形は最後の頚木を手放して、強く自身を椿の中に押し込んだ。
「あっ・・・い、たっ・・・っ・・・」
――止めねぇし、許さねぇよ。
 痛みに四肢を震わせる身体を無理に抱き寄せて、胸を合わせる。先程まで弄んでいた突起に、布越しで冷たい金属を触れさせた。
「やっと全部入ったなぁ・・・椿、」
「・・・っう・・・・・・」
 呻き声が耳に響く。それすらも、心地良く感じていた。
「このままだと、オレ、イけねぇんだけど、動いてもいい? それとも、止めようか?」
 わざと二択を口にすれば、拒絶を出来ない事を思い出した身体がぴくりと反応する。
「・・・いっ・・・いで、す・・・・・・」
「動いた方が? 止めた方が? それじゃ、良く分かんねぇよ」
 肯定の返事で逃げようとした椿を、突き放して更に疑問を投げ掛けた。ハイ、イイエ、で答えられない言葉に、繋がった部分からさえ緊張が伝わってくる。安形の肩で震えていた指が離れ、次の瞬間、椿の腕が安形の身体に廻された。背中でシャツが、深く皺を刻むのを感じる。顔は肩口に埋めれられて、表情は窺い知れない。けれど、固くくぐもって響く声に、心根が知れた。
「動っ・・・会ちょ・・・の、動か・・・してぇ・・・・・・」
――きっと、凄ぇ屈辱的な顔してんだろうな。
 背中から伝わる指の振るえと小さな嗚咽。自尊心をずたずたに傷付けられた表情を想像すれば、安形の心の奥から濁った欲望が沸き起こった。吐き出された言葉にも高揚した身体を、本能の赴くままに動かし始める。
「あああっ・・・いっ、あっ・・・」
 肩口で響く叫び声を感じながらも、安形は快楽に没頭していった。自分自身を締め付ける後ろは痛みすら与えているのに、心と言う名の別の部分が快感を巻き上げる。乱暴にそこを動かし、声を上げさせればさせる程、自分が高まって追い込まれた。
「ヤバッ・・・ここ、凄ぇな」
「ああっあっ・・・かっいちょ、お・・・んんっ、かいっ・・・」
 椿の双丘に手を掛けて、わざと自身を食い込ませ、卑猥な言葉を投げ掛ける。呼ばれるのは制止のためだと分かっているのに、請われるために呼ばれている錯覚を楽しんだ。
――椿、オレを呼んで・・・
「嫌がってる振りして、悦んでるみてぇ・・・メチャクチャ、絡んでくる」
「ち、がっ・・・ああっ、かっ・・・会ちょ・・・」
 泣きながら頭を振って、安形の身体にずっときつくしがみ付く腕が、抱き締められている心地にさせられる。
――もっと・・・オレに、縋れ・・・
 抱き締め返す代わりにより深くに己を差し込んで、上がる悲鳴を愉しんだ。
「こんな具合好いの、初めてだな・・・もう・・・」
 女性経験も殆ど無いくせに、嘯いて笑いながら耳元で囁いて、より奥に自身を突き立てる。抑える事もせずに内側に欲望を吐き出せば、その感覚に椿の身体がびくりと跳ねた。
「・・・うっわ、搾り出すみたいに飲んでら」
 比喩ではなく椿の内壁に自身が圧迫され、肉の隙間を埋める様に吐き出される脈打つ体液を、そこが飲み込んでいく。
「・・・っ・・・ぅ・・・・・・」
――あぁ、これで、手に入った・・・
 男に犯されて、中に欲望を吐き出され、涙しながら震える頬に、気付かれない様にそっと唇で触れた。
――・・・少なくとも、身体はこれでオレのもんだ。
 愛おしさは気付かせず、未だに絡む内部に心の中だけで勝利の宣告をする。
――藤崎、てめぇのじゃ、ねぇんだ・・・!
 空しさを含んだ勝利を、安形は堕ちた戦利品と共に、抱き締めた。

2011/10/20 UP
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