４ 少し唇の端を上げるだけの笑顔を張り付かせたまま、安形は視線を浴びせていた部分にゆっくりと指先で触れる。先端から希里自身に指を這わせ、液を絡めながらなぞると、びくりと希里の身体が震えた。 「･･あが、た････ほんっ･･やっ、め･･･」 震える吐息を吐き出しながら言われた言葉に、安形は無言で応えながら指を更に下へと進める。高く突き上げられたままの脚に口付けて、希里の中へと指を突き入れた。 「ぅん････っ･･」 小さくしなって声を閉ざす姿を眺め、安形は更に奥に指を進める。軽く指を折り曲げて中を刺激して、指にそこが絡み付くのを光の下で眺めながら、安形は唇を開いた。 「へぇ･･･こんな風に銜えてんだ。知らなかった」 冷たいとも取れる口調を聞いて、希里が歯を食い縛って目をきつく閉じる。掴んでいる足首が震えているのを感じながら、安形は指を増やして中を弄った。知っている弱い部分を刺激して、震える脚に舌を這わす。恥辱に歯噛みして、それでも与えられ慣れた快感に、希里の息は熱く短くなっていった。時折、溢れる涙も今は痛みや羞恥だけの為でないと感じながら、安形は更に希里を追い込んだ。 「こうされっと、弱いんだよな」 「ひぁっ･･･やっ･･っ･･･」 安形が大きく指を動かした瞬間、希里が仰け反って声を上げる。快楽に瞬いた瞳から涙が飛んだ。安形はそれを眺めながら、足首から手を離して太腿に手のひらを這わせ、内側の弱い部分ばかりを刺激する。 「･･･っあ･･やっ･･めろっ･･･んんっ、ん･･」 手のひらを内へと動かせば、それにも反応して希里の身体が震えた。はっきりとした変化を視界に入れながら、安形は激しく指を動かす。響く淫靡な音の中で時折混じる命令染みた制止に、安形は背中を這い上がるような快感を感じていた。 「凄ぇ、ヤラしい感じに絡んでんだ･･･感じてる？」 「ふっ、ざ･･あっ、あああっ！」 希里が噛み付くように声を上げ掛けた瞬間、安形の手のひらが動いて希里自身を強く擦り上げる。指の刺激に反応していたそこに新たに刺激を与えられ、耐え切れずに希里の下肢から精液が飛び散った。薄く色付いた白い肌の上に、更に白い液が降り掛かる。絶頂の余韻に内ごと震える身体を感じながら、安形は乱暴に指を引き抜いた。 「･･っ････ぅ･････」 指の感覚に身震いした希里の姿を眺め、その顔の横へと安形は左手を着く。思っていたよりも涙に濡れていた瞳が、真横に来た手を、そして差した影に気付いて安形へと向けられた。威嚇する獣の視線を浴びながら、けれど噛み締めた牙から漏れる甘い息遣いに、安形は心の何処かが満足しているのを感じる。誰の物になるでもない獣に、頑丈な鎖を付けたかの、感覚。 「･･･二回も先にイくとか、ズルいな」 唇を噛み締めたまま、希里はスイッと視線を逸らす。返って来ない返事は、きっと息を荒げた声を聞かせまいとする為と、 ――ああ、やっぱ、ちょっと怖ぇんだ。 怯えを隠す為。微かに震える目尻と歯列が、それを安形に教えていた。安形が右手でベルトを外す音を響かせれば、それを肯定するように希里の身体がびくりと震える。そこにまた満足を覚えながら、安形は差し出された首筋に唇を寄せた。次の行為への準備を進めながら、そこへ舌を這わそうとして、視界に映った物に一瞬動きが止まる。 「･････んだよ」 思わず漏らした言葉は酷くくぐもって低く、本来なら誰にも聞こえなかっただろう。ただ耳元近くで呟かれた声に、希里は微かに反応した。それには気付かず、安形は目の前に映った、普通なら見逃される傷へと舌を這わせる。刃物が掠った事を思わせる直線が、鎖骨近くから上へと伸びていた。 ――････少し深けりゃ、頸動脈ばっさりだろうがっ！ 「･･･んっ！」 腹立ち紛れに首筋に噛み付けば、希里が短く喘ぐ。たった一つの傷痕が、押し殺そうとしていた感情を思い出させた。怒りに似た想いのままに安形は上半身を起こすと、希里から顔を隠すように俯いて、右脚の先を自分の肩へと動かす。腰が軽く浮いた所為で晒し出された希里の後ろへと、取り出した自分自身を押し当て、一気に身体を進めた。 「っ！！」 指とは違う太さのものを、希里は辛うじて声を殺して受け止める。動かされた身体が軋みを上げて痛むのを感じながらも、慣らされた後ろは安形を受け入れていた。 「なぁ･･････」 最奥まで一気に捩じ込んだ所で動きを止め、安形は希里へと投げ掛ける。 「･･････ちゃんと、声上げろよ」 左手を希里の唇へと伸ばしながら、安形は顔を上げた。 「感じてんだよな？ 声･････聞かせろよ」 合わさった視線の中で、希里が拒否を示すように睨み上げてきて、だが次の瞬間にその瞳が大きく見開かれる。 ――･･･何で、驚くんだ？ 指先で唇に触れると、そこがぴくんと震えた。指を差し込んで無理矢理口を開けさせようと思っていたはずが、そこは既に薄く開いていて、あっさりと安形の指を迎え入れる。 ――オレ、今、どんな顔してんだろう･･･ 下手をすれば惨事に繋がるような傷痕の数々に、そしてそれに今まで気付かなかった事実に、安形は酷く腹が立っていた。だから今の自分の表情は怒りのそれで、怯えを深めこそすれ驚くような物では無いはずなのに。 安形の顔を見ていた希里の眉が、そのまま泣きそうに歪んだ。けれど、それは恐怖や恥辱からの物とは違う何かに思える。 「･･･っふ･･あ････」 安形が指で舌を絡め取った瞬間、希里の唇から熱い吐息と声が漏れた。まるでそれが合図のように、安形の身体が動き始める。 「あっ･･･んっ、ふ･･あっ････」 内側を擦られる感覚に、希里は目を閉じて、身体を仰け反らせて喘いだ。快楽に悦を帯びた熱い声を聞いて、安形の動きが激しくなる。 「ああっ･･･はっ････あがっ･･た･･･ぁっ････」 涙に濡れた瞳が薄く開いて、上擦った声で名前を呼ばれた。誘うような眼差しの妖艶さと響いた声音に、安形の下肢が熱を増していく。 「･･キリ･･･っ･････」 上がった息のままで名前を呼ぶと、差し込んでいた指先に熱い舌が絡まった。ぞくりと背筋を駆け上がる快楽に身を任せ、更にと動きが増していく。 「･･･あっ･･がた･･っ･･･ぅあっ･･あ、ああっ････」 呼ばれ、誘われるように、安形の身体が少しだけ傾いだ。ほんの数センチ近付いた安形の姿を見て、一瞬だけ息を止めて希里が安形に視線を絡める。無理に広げられて不自由なはずの脚を僅かに動かし、希里は足の甲で安形の項へと触れた。強請られている、そう感じて、求められるままに安形は更に身体を近付ける。差し込んでいた指先から唇が逃れ、代わりに差し出された濡れた紅い舌。安形はそこに軽く舌先で触れると、そのまま口付けた。 BACK≪ ≫NEXT |