――さぁて、どうしてやろ。
 抵抗の薄くなった身体から少しだけ離れ、安形は希里の背中に人差し指を一本、這わせた。
「ひぁっ・・・なっ、変なトコ、触るなって!」
 希里は怒鳴りつけてきたものの、安形の指に反応して口からは熱い吐息を吐き出している。
「ホントお前ぇ、威勢だけはイイよな」
 威嚇を繰り返す子犬の様な姿を眺め、安形は小さな笑い声を零しながら指を動かした。その動きが、ふと止まる。嬉しげにニッと笑って、安形は指を二本揃えて目標の場所を撫でた。
「へー、キリってこんな所にホクロあるんだ。知ってた?」
「・・・・・・っ!」
 背中の中ほど辺り、左の脇腹に近い分部にある小さな黒子に触れながら安形がそう言えば、希里は身体を固くして息を飲む。後、ここに、と安形の声が続いた。
「傷痕がある」
 今度は右肩の少し下に斜めに走る傷痕を、安形のもう一方の手がツッと滑る。
「あが・・・っ」
 カッとなった希里が叫び掛けた瞬間、傷痕から指先が離れて熱く湿った感覚に変わった。突然の変化に頭が真っ白になった希里の右腕を、柔らかく熱い感覚が蠢き続ける。
「・・・・・・・・・」
 無言のまま傷跡を舌先で突きながら、安形が希里の様子を窺えば、希里はあからさまに困惑していた。自分でも分からない。そんな表情で顔を仰け反らせたまま、希里は唇を結んで眉を歪めていた。様子の変化に小さな疑問を抱きながらも、無意識に安形は行為を続ける。傷痕を吸い上げた瞬間、びくん、と希里の身体が跳ねた。
「・・・っ・・ぅ・・・・」
 泣きそうな程に歪められた眉と、ぎりぎりまで押し殺してなお零れた喘ぎ声。気付いて安形が再度傷痕の柔らかな肉を吸い上げれば、快楽に戸惑った身体が揺れる。舌で覆うように傷痕をなぞりながら、安形は別の傷痕に指先で触れた。指先に返ってくる、普段触れている固い肌とは違った無防備で柔らかい感触。腕を押さえて指先でゆっくりとそこを撫でれば、いつも以上に反応する様が安形に希里がそれをどう感じているのかを教えた。唇を腕から離し、けれど指先でもう一つの傷痕を刺激しながら、安形は身体を希里に密着させて顔を真横へと動かす。
「傷痕を見られたくないんじゃなくて、触られたくなかったんだ・・・」
 言いながら、安形は左手を気付かれないように動かす。
「・・・ちょっとで、もうこんなになってるもんな」
「・・・・・・っ!」
 安形の左手が希里の前へ触れ、更に希里が背を逸らす。歯を食い縛って余裕無く声を殺している様と、安形の左手が触れているものが軽く勃ち上がっている感覚が、言葉を肯定していた。希里は声が漏れるのを恐れてか、息すら止めて小さく顔を横に振る。ふぅん、と小さく笑って、安形の左手が希里の先端を指で弾いた。
「・・・・・・っ!!」
 辛うじて声は殺したものの、希里の肩が激しく跳ね、続いて身体が小刻みに震え始める。後もう一歩、とほくそ笑んで、安形は口を開いた。
「じゃあ、別に触っていいんだ」
 ギクリとしたまま肯定も否定も出来ない希里の身体から、左手はそのままに安形が離れる。右手で快楽に震え続ける太腿の内側を撫で上げながら、目を細めて希里の肢体を眺めた。その視線が一点で止まり、不快げに眉がひそめられる。
「・・・・何処をどうやったら、こんな場所に傷作れんだか」
 腰の左側に走る数センチの刃物傷。大きくはない傷痕を今まで気付かなかった事実に、安形は無意識に苛立ちを覚える。胸の内をジリジリ焦がす感覚に押されて、安形はそこへと歯を立てた。
「・・くっ・・・・っ・・・」
 噛み締めた歯の間から呻きに似た甘い声が漏れるのを聞きながら、安形は激しく左手を動かし始める。同時に傷痕を何度も甘噛みして、右手を上へと這わせた。脚の付け根から更に上へ、柔らかい肉を掴んで親指を後ろへと忍ばせる。
「・・・ぅん!!」
 安形は親指の腹で入り口を軽く撫でただけだったが、耐え切れず希里の喉から喘ぎが迸った。乾いた指を押し入れる訳にもいかず、右手は柔々と動かすだけだが、代わりに左手と唇で刺激を与え続ける。聞かせる為にわざと激しく音を響かせれば、自分の喘ぎも混じる音に希里の目から悔し涙が零れ落ちた。
「ぅっ・・っ・・・くっ・・・・ぅう・・・」
 手の動きを速める毎に希里の声が荒くなっていく。その音を聞きながら、安形は強く傷痕を吸い上げ、左の指先で先端を弾いて入り口を押し開いた。
「んっ・・ああっ・・・・っ!!」
 迸る声に唇を大きく開けて、希里が背中を仰け反らせる。同時に手のひらに絡まった熱い精液の感覚に、安形は満足げに笑った。
「・・・ぅ・・・・て、め・・」
 まだ整わない息のままでも、希里は噛み付く様に安形を睨み付ける。安形は希里の視線に肌を焦がしながら身体を起こすと不敵に笑い掛け、濡れた左手を持ち上げた。滴る白を目にし、希里はまた言葉を失う。顔面に羞恥を貼り付ける希里を眺めながら、安形は左手に顔を寄せた。え、と硬直する希里を目の端で見ながら、手のひらを伝う精液に舌を這わせる。
「〜〜〜〜〜〜っ!」
 羞恥と怒りに彩られる顔で、希里は声にならない声を上げた。笑みを崩す事無く左手を丁寧に嘗める安形に怒りが頂点に達した希里が、肩と片膝だけで身体を支えて足首に絡まったままのズボンから右の脚を引き抜く。そのまま勢いを付けて、踵を後ろに居る安形へと蹴り出した。
「ぐっ・・・!」
 希里の踵が見事に股間に叩き込まれ、息が止まる程の激痛に安形の咽からくぐもった声が上がる。希里の姿に反応し掛けていた事も有ってかなりの痛みを覚え、そこを押さえて蹲る安形の下から希里が這い出した。不自由なままに身体を反転させ、希里は後ろで拘束された腕を何とか解こうと試みる。
「お〜め〜えぇ〜・・・」
 どうにか回復した安形が顔を上げた事に、希里はぎくりと表情を強張らせた。再度ダメージを与えようと右脚を振り上げた所で、安形が即座に希里に言う。
「足広げっと、全部見えるぞ」
「!!」
 安形の言葉に希里は、反射的に蹴りを収めて両脚を曲げて覆う様に前を隠した。
「見てんじゃねぇーっ!」
 希里の脚に視線を集中させている安形に、希里は真っ赤になって怒鳴り付ける。安形が身体を寄せれば、近寄るなとばかりに脚を閉じたままで右脚が小さく蹴り上げられた。威力など無いに等しい蹴りを軽く避け、安形の手が逆に足首を掴む。両太腿の付け根の隙間に右手を差し込んで、合わせられた膝へと肌を揉みながら上へと動かした。

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