安椿 手を繋ぐ

 寒さの厳しくなってきた冬のある日、椿は帰り道の寒さを凌ぐため、手袋を鞄から取り出した。随分と使い込まれた手袋をいつものように嵌め・・・
「あっ!」
 ・・・たはずだったが、人差し指と中指がいきなり貫通した。見れば所々ほつれもあり、どう考えても寿命以上の働きをしていたのが分かる。
「随分使い込んだんだなぁ」
「!!」
 不意に自分の肩に乗せられた顔と耳に触れた息とに驚き、椿の身体が激しく跳ねた。
「急に背後から現れないでくださいっ!」
「・・・・・・そんな顔で言われたら、余計にしたくなるじゃねぇか」
 顔を真っ赤にして距離を取った椿に、かなり真剣な顔で安形が呟く。鳩尾に一発キめた方がいいのだろうか、と椿は思いつつも構えば構うだけ自分が負ける気がして椿は無言になった。
「それで帰るのか? 寒いだろ」
「もう片方ありますから、ご心配無く」
 片手はポケットにでも突っ込んでおけばいい。危険だが致し方無いとため息をつきつつ、もう片方の手袋を手に嵌め・・・
「そこまで来ると流石としか言えないな」
「・・・・・・そうですね」
 ・・・今度は一気に四本の指が手袋から顔を覗かせた。色々と考えた末、椿は諦めて手袋を鞄にしまう。それを見て笑っていた安形だったが、ふと何かを思いついたらしく自分の嵌めていた手袋を右手側だけを外した。
「椿、ほら」
「会長・・・」
 差し出された手袋に戸惑いを隠せない椿に、安形はまぁまぁと言いながらそれを押し付ける。
「片方あれば大丈夫なんだろ?」
「ええ、まぁ・・・」
 困り顔のまま、それでもおずおずと手袋を嵌めた椿は、自分の物より少し大きめのそれが先程までの暖かさを残しているのを感じた。
「で、」
 椿が右手に手袋を嵌めた事を確認すると、安形は素早くもう片方の手を掴む。
「こっちは、こうだな」
 抵抗する間も無く、そのまま二つの手は安形の上着のポケットに仕舞われた。慌てる椿に安形が微笑みを返す。
「こうすれば、」
 上着のポケットの中で安形の指が椿のそれに絡まった。冷えていた椿の手に安形の熱が伝わる。
「こんな事しても見えねぇし」
 ぴたりと横に付き意地悪く笑う安形に、椿は顔を赤くしつつも何も言えなくなる。ただ、自分の指先が徐々に温まっていくのを感じていた。
「嫌?」
 耳元触れる程近くで響く声。擽られるのは耳管だけではなくて。
「・・・・・・・・・今日だけ、特別です」
「それじゃ、遠回りして帰らないとな」
 指先が内側からも熱くなった。

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テーマ「人外ファンタジー」
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