NIGHTMARE おまけ

 榛葉が生徒会室のドアを後ろ手で閉めると、そこでは先に部屋を出た二人が待っていた。二人とも榛葉の顔を苦笑気味に見つつ、歩き出した榛葉の横に付く。
「しかし榛葉さんが『二人が喧嘩してる』と事前に教えて下さってなければ、今日は凄く動揺してましたわ」
 ほっと息をつきながら、丹生がそう言った。その様を見て榛葉は少し苦笑する。昨日の段階で榛葉は場のお膳立ての為に二人にそう連絡を入れていた。
――功を奏するかどうかは、あの二人次第だけれども。
 心の中で呟くと、横から別の声がする。
「・・・そうだな。正直、会長はあれで」
 一度言葉を区切り、浅雛はふっと短いため息を漏らす。
「バレてないと思っているのだろうか」
「ん・・・まぁ、多分そうだろうね」
 その言葉に浅雛は何だか気まずげに視線を泳がせた。丹生もふぅと息を吐き、戸惑う表情を見せる。
「椿くんの事を一度も見ずに、その癖神経だけは嫌になるほど向けていましたものね」
「椿くんは椿くんで覇気が無かった上に会長が入ってきた瞬間に緊張するし、な・・・」
「それなのに二人とも『別に何もありません』って空気を出そうと必死でしたし」
「あの緊張感でそれは、ちょっと無理が・・・」
「二人とも、その辺にしといてあげて」
 どんどん弾んでしまう二人の会話に何だか居た堪れない気分になって榛葉は口を挟んだ。
「安形もその・・・初めての経験だろうし。勘弁してあげてよ」
 自分でも同じ事を感じつつも他の人間に言われると庇いたくなるのが心情。思わず榛葉がそう漏らすと、何故か丹生が今までの表情とは一転した、きらきらとした顔で榛葉を見上げた。
「それは・・・やっぱりそう言う事なんでしょうか?」
「え?」
 やれやれと伸びをしていた榛葉が固まる。
「二人とも喧嘩が始めてでは、ありませんよね?」
「えぇーと・・・」
 どう誤魔化したものかと伸びの形のまま榛葉が冷や汗を掻いていると、ダークフォース浅雛からも言葉が漏れた。
「やはり・・・・・・痴話喧嘩と言うやつなのだろうか」
 完全に固まってしまった榛葉を残して二人は数歩先に進む。
「・・・・・・・・・君達は何を知ってるのかな〜?」
「いいえ、ただのカンです」
「今の反応で決定打だな」
 丹生はにっこりと微笑みながら、浅雛は再びため息を漏らしながら、二人は振り返って榛葉の顔を見た。榛葉の全身を滝の様に汗が流れていく。
「カマ掛けとは・・・・・・二人ともやるね」
 色々な策略を考えてもみたが結局は諦め、大仰なため息と共に榛葉はそう言った。それを見て丹生はくすりと笑う。
「それは、まぁ・・・私たちも心配しましたし」
「ちゃんとした事情を知る権利はあるだろう」
 きっぱりと言い切った浅雛に榛葉は自分が嘘をついた事に罪悪感を覚えた。上げたままだった腕を少し降ろし、降参のポーズを取る。
「仲間外れにして、ごめんなさい」
 一歩足を踏み出して歩き始めると、榛葉は改めて二人と肩を並べた。その両脇で二人共満足そうに笑う。
「解って下されば宜しいですわ」
「そう言う事だ」
 横並びに三人。多少、往来の邪魔ではあるけれども、今は誰も咎める者は居ない。
「で、判った所でお二人の感想は?」
「会長は会長、椿くんは椿くん。何も変わらない」
「二人とも明日笑って下されば、それでいいと思いますわ」
 そうだね、と呟いた榛葉の頬を不意の突風が触れる。その温度はいずれ来る冬を感じさせたが、その更に向こうには確かに春が待っていた。風が後ろに、季節が次に、流れていく。それは止められない。だけど、
「いつだって、二人が笑っていればいい」
 流れゆくものの中にも、変わらず在るものもまた事実なのだと。今ここに在る笑顔が告げていた。
2011/04/30 UP
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