安+ボス ビスケ/下ネタ

 今日もビスケット幼稚園では、元気に駆け回る園児達で溢れ返っていた。けれど、ただ一人、いつもと違ってやけに静かに座り込んでいる園児が居る。ユウスケこと、ボッスンは普段なら率先して走り回っているにも関わらず、今日は静かに座り込んで花壇の花を見ていた。
――あー、サスケが休みだと、やっぱ元気無ぇなー。
 その後ろ姿を見ながら、担任の安形は小さなため息を漏らす。今日はボッスンの双子の片割れ、サスケが風邪を引いたとの事で休むと、今朝母親から電話があったのだ。一人だけ登園してきたボッスンは、朝から明らかに元気が無く、そわそわとしてはため息ばかりをついている。今も座り込んだままため息をついたかと思うと、きょろきょろと辺りを見回していた。
――元気付けてやった方がいいか?
 考えている安形の目の前で、ボッスンは何かを決意をしたかのようにぐっと拳を握り締める。おや?、と思いながら安形がその様子を眺めていると、ボッスンはそっと周りを窺うように視線を走らせた。正直、挙動不審である。
 安形の方にも視線を向けそうになり、思わず安形はボッスンから視線を外した。けれど、何をするのか目の端だけで追ってみる。ボッスンは周りが自分を見ていない事を何度も確認し、そーっとすり足で門へと向かった。しかし、地面が思い切り土なのでズリズリと不自然な音がして、逆に目立つ。
――本人はこっそり動いてるつもりなんだろうけど・・・・異様に目立ってるぞ。
 そのまま門に辿り着いたボッスンは、門に手を掛けるとまたしても左右を何度も見回して、大胆にも門に足を掛けた。
「・・・って、それは気付くって!」
 安形はダッシュでボッスンの所まで走ると、脱走しようとしていたボッスンのスモックの後ろを掴む。
「げっ! 安形せんせい!!」
「げっ、じゃねぇって。何してんだ、ボッスン」
「何ってっ・・・ちょっと門に気合入れてたんだよ! 別にサスケが心配だからお家に帰ろうとかしてねーよ!!」
「そうか。サスケが心配でお家に帰ろうとしてたのか」
「何でバレたんだ! せんせいはえすぱーか!!」
「今全部、自分で言ったろーっ!」
 自分の手の中で釣り上げられた魚宜しく、ビチビチと跳ねるボッスンと言い合いをしながら、安形は困ったように眉を歪めた。
「お前なぁ・・・サスケが心配なのは分かるけど、父ちゃんも母ちゃんも幼稚園行けって言ったんだろ? そりゃ、母ちゃんがちゃんとサスケの看病してて大丈夫だから、お前はちゃんとお勉強しろって事なんじゃないか?」
「だけど、心配だっ!!」
 ごもっとも、と安形は苦笑する。仲の良い兄弟なら、心配するなと言われて本当に心配しないで済む訳がない。ましてや、双子なら猶更なのだろう。
「で、こっそり脱走して、他の友達や先生やらに心配を掛ける、と」
「うっ・・・」
「黙って居なくなったら、ミモリン先生も泣くだろぉなぁ〜。ヒメコも普段、気ぃ強いけど、泣き出すかもなぁ〜〜〜」
「ううっ・・・」
 逆にボッスンが泣きそうになり、この辺で止めておこうと安形はボッスンを地面に降ろした。
「でもっ、でもっ・・・」
 ボッスンと向き合う形で腰を落とし、安形は目線を合わせる。半泣きで目を擦りながら、猶もボッスンは言い訳を続けた。
「・・・母ちゃんがサスケ、びょういんにつれていくって言ってたし」
「うん」
「でも、びょういんにいって、ちゅうしゃとかされたら・・・」
「あー、風邪位なら注射は無いだろ」
 そんな事で脱走までしようとしてたのか、と安形は微笑ましく思いながら、安心させる為にボッスンの頭を撫でる。だが、ボッスンは全く安心出来ないようで、やはりまだ涙目のままで安形に向かって叫んだ。
「でもでもっ、びょういんのせんせいが悪いせんせいで!」
「悪い先生?」
 ボッスンの様子がやたらと緊迫している事に、安形は一抹の不安を覚えながら首を傾げて話を聞き続ける。
「ヤダって言ってるサスケの服とかビリビリにして!」
――んん?
 天気の良い昼下がりに相応しくなくなってきた台詞に、安形は更に首を傾げた。ボッスンはと言えば、全く自分の発言内容のおかしさに気付かず、寧ろ感極まって泣き出す一歩手前だった。
「ホータイとかでしばられて!!」
――んんんん〜???
 あからさまに子供の想像の範囲を超える想像に、安形の首が九十度に傾く。
「おしりにおっきなちゅうしゃとかしたりしてたら、サスケがかわいそうだ!!」
「実の兄にそんな妄想されてる方がよっぽど可哀想だーーーっ! ってか、どっから仕入れた、その知識!!」
 とうとう泣き出したボッスンだったが、つい冷静さを欠いて安形は叫び返してしまった。怒鳴られた事にも気付かないほど号泣しながら、それでもボッスンは安形に返事をする。
「父ちゃんのへやっ、ベッドの下のえほんにあったっ!!」
「それは絵本じゃねぇーっ!」
――お父さーん! 子供の目線は意外と低いんですよ! エロ本の隠し場所はもっと厳重に!!
 まさかに事態に混乱しながらも、安形はボッスンの頭を撫でつつ、自分も深呼吸をして心を落ち着かせた。何とか通常の先生モードを取り戻し、まずはボッスンを安心させる事を優先する。
「えーとな、ボッスン。その絵本ってか・・・ご本に描いてあるのは、嘘だ」
「オレの父ちゃんはウソつかねぇぞ!!」
「ああ、お前の父ちゃんは嘘つかねぇけど、ご本に描いてある事が、嘘なんだ」
「何でだ! ウソはよくないぞ!!」
「そうだな。けど、最初に『これは嘘です』って言ってる場合は別だろ? そう言うご本は最初に難しい言葉でそう書いてあるんだよ」
「そうなのか! 何でそんな事するんだ!?」
 現実より空想が欲しい時もあるんです、とは少々言い難く、安形は何とも言えずに苦笑に近い表情を浮かべた。逃げ口実だよな、と思いつつ、敢えてそれを口にする。
「・・・・・大人になれば、分かるから。それは置いといて、病院ってお前も行った事あるのか?」
「ある!」
「じゃ、その病院の先生、知ってるか? どんな先生だ?」
「優しいぞ! いっつもアンパンマンの人形見せてくれるし」
「じゃ、悪い先生じゃないな」
「うん! わるいせんせいじゃな・・・・・・安形せんせい、サスケはだいじょうぶな気がしてきた!!」
 ハッと気付いたように、ボッスンは泣き止んで安形を見上げた。駄目押しにボッスンの頭を撫でながら、安形はもう一言付け加える。
「まぁ、母ちゃんも付いてるんだし、先生も優しいし、そうだろうなー」
 漸くボッスンが落ち着いたらしいと見て、安形は安堵の息を漏らした。それと、同時にもう一つの心配事を解消する為に口を開く。
「所でボッスン、今日のお迎えは父ちゃんと母ちゃん、どっちだ?」
「父ちゃんだ」
「そうか・・・ボッスン、悪いが父ちゃんがお迎え来たら、父ちゃんとちょっとだけお話をさせてくれ」
「何でだ? オレ、サスケがしんぱいだから、はやくかえりたい」
「ん、今後のお前とサスケの為のお話だから、ちょっとでいいからさせてくれ」
「ならしかたない! させてやるけど、さっさと終わらせてくれよな!!」
「ああ・・・多分、五分で終わるから・・・・・」
 そう言いながら、安形は空を見上げた。心の中で、ボッスンの父親に語り掛ける。
――お迎え、奥さんでなくて良かったですね。

 その日、ボッスンのお迎えに来た父親は、泣きそうな顔で帰っていきました。

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