安椿 事後

 うとうととし掛けていた矢先、腕の中で身動ぎした身体に、安形の眠気が遠退いた。起きたのかと思って閉じ掛けていた瞼を開いたが、椿のそれは未だに降りたままで、その奥の琥珀ごと眠っている。
「・・・・・・・・・」
 無防備に眠るその顔に、一瞬息が止まった。それが夜中の自分の腕の中と言う事実を思い出し、胸の奥からじわりと擽ったさが沸き起こる。引き摺られるように数時間前の事が思い起こされ、何とは無しに気不味さを感じて安形は無意識に身体を引いた。
「ん・・・・・・」
 小さな声と再び動いた身体に、今度は自分が椿を起こしてしまった事に気付く。
「あ・・・悪ぃ」
「んんー・・・」
 安形の囁きに椿の瞼が声と共に動いた。まだ半ば夢の中を彷徨っているのか、ぼんやりとしたまま安形の顔を見上げる。焦点を合わせないままなのに、安形を捉えた瞬間、ふにゃりと柔らかく微笑んだ。
 動揺して更に身体を引き掛けた安形の胸に、椿は逆に頭を寄せ、猫のようにすりすりと頭を摺り寄せる。余り見せない甘えに似た行動に安形が顔を赤くしていると、裸のままの自分の身体にやはり同じ状態の素肌が重なった。背中に触れた手のひらの熱さに、それを引き剥がすべきか引き寄せるべきか悩んでいると、拍子抜けする程にあっさりと胸元から寝息が伝わってくる。
――おぉーい・・・・・・
 触れられた背中が、熱い。同時に別の部分にも熱が生まれ掛けていたのに、元凶はあっさりと眠ってしまった。再度眠ってしまった椿を起こすのも躊躇われ、結局安形は少し苦笑をして、軽くその髪に手を添える。触れるか触れないか、ぎりぎりの距離で、眠りを妨げないように。
――罪作りってのは、こう言うのかね。
 そう思いながらも、こうして二人抱き合って眠れる事実に満足してしまう。微かに香る自分とは違う人の匂いを感じながら、安形も再び瞼を閉じた。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -