▽夢主不在
▽未来といえば未来
▽これ夢小説?








その日、ホークス事務所はキュートな包装に彩られた。
ブラウンやピンクやミントグリーンが所狭しとひしめいている。中にはバラの花束、ぬいぐるみ、有名ブランドのアクセサリーと思しきギフトボックスなど、バラエティ豊かなプレゼントの山が事務所内を占拠していた。
それを呆然といった表情で見つめるのが常闇くん。
パトロールから帰ってきた彼は、朝は確かに存在しなかったラッピングの山に言葉を失っていた。平静を装いながらも、ようやく出てきた言葉は「これは一体……?」だった。
寡黙な彼らしい素直な反応に、事務所に朗らかな雰囲気がただよう。

「去年はもっと少なかったんだけどねえ」

その言葉に、常闇くんはようやく腑に落ちたようで「成程」と頷く。しかし、その視線はどこへ向けて良いものかと泳がせてしまっていた。

「師の人気は存じていましたが、これほどとは……」
「全国ん女性ファンからと思えば妥当よ」
「ま、どこの人気ヒーローもこんな感じだよ」

「宅配の兄ちゃん、また来るって言ってたよ」と言うと、常闇くんは自慢の鋭い目を見開いては眉間に皺を寄せる。何も言わずとも「信じられない」という声が聞こえてくるようだった。
世の女性と催事場が沸き立つバレンタイン。このホークス事務所も例外ではなく、普段からは考えられないほどに華やかになる。
年々増えていく贈り物に「来年こそバイト雇いましょうよ」と苦言を呈するのがお決まりとなっていた。その日ばかりはホークスもウンウン頷いてくれるのだが、希望が通ったことは今のところない。
つまり、片付けは俺たちサイドキックの担当となるのだった。

「それじゃあ今年は常闇くんもいるということで、張り切って片付けようか」
「……御意」

あまりに元気のない「御意」に笑ってしまった。
出会ったばかりのころはポーカーフェイスなのかと思っていたが、意外とわかりやすい少年なのだった。
ローテーブルの横に空の段ボールを置いて、サイドキックがそれぞれの位置につく。滅多にない光景だ。

「市販のやつは開封されてないか確認してこの中。手作りは残念だけどこっちに入れておいて破棄。食べ物以外は一旦こっちに置いといて、あとから確認」

指差し説明するのを、常闇くんは一つ一つ頷きながら聞く。俺たちには慣れたものだが、初めての常闇くんは「捨てるものもあるのですね」と訝しげに言う。ちょっと意外な反応だと思った。

「まあ、何が入っているかわからないしね。……あ、でも手紙があったらとっておいてね」
「手紙は全て?」
「そ。ホークス、ああ見えてもらったファンレターは全部目を通してるよ」

あからさまに意外!という表情を見せる常闇くん。
おいおいそれは失礼だろう、と思ったが「ああ見えて」などと言う俺も同罪なのだった。

「君の師匠はそんなに酷い人なのかい?」
「いえ、多忙な方なので……全部だとは……」

揶揄ってやると、ばつの悪い表情で言い淀む。
その様子がおかしくて思わず笑みを溢すと、彼は怪訝そうに眉根を顰める。そして気を紛らすように、近くのプレゼントを手に取るのだった。
彼がホークスを師と呼ぶようになってずいぶん経つ。
最初の頃こそ、何も知らない学生として職場“体験”をしに来ただけのひよっこだった。それが、ある時から数あるプロヒーローの一人だったホークスを特別視するようになり、いつの間にか師と仰ぐようになった。
時に敬い、時に越えようと切磋琢磨する姿は眩しい。真面目でひたむきなヒーローの卵なのだった。
ホークスも、学生には興味がないと言わんばかりの態度を見せていたくせに、少しずつ手をかけるようになった。「鳥仲間」と茶化す彼だったが、はたから見ればなるべくしてなった師弟関係である。
ベランダから物音がして、全員が顔を上げ目をやる。
噂をすればというやつで、件の人物が今日も今日とて上空から軽やかに出社するのだった。

「お疲れさまで──て、うわ、すごいですね」

カラフルなラッピングを見渡して、開口一番に感嘆の声を上げた。
去年より全然多いですよ、と聞いてホークスはへらへらと笑う。その手には可愛らしい包みの入った袋があった。きっと道ゆく人に持たされたのだろうと、見てもいない情景がありありと思い浮かぶ。

「来年は流石にバイト雇いましょうね」
「通常業務に影響出そうならそうですねえ」

相変わらずへらへらとした口調で言うので、「あ、これは来年も同じことになるな」とその場にいる全員が思ったものだった。
所定の席に荷物を置くと、黙々と仕分けを進める常闇くんに近寄る。口元に手を当て、物色するようにラッピングの山を見渡した。

「常闇くんお腹空いてる?」
「いえ」
「空いてるよね?甘いものは好き?」
「い」
「好きだよね?まだパトロールまで時間あるんでおやつにしようか」

「好きなの選んで」などと間髪入れずに捲し立てる。
一言も返せないまま唖然とする常闇くんだったが何かを諦めたように溜息を吐き、「お茶を入れてきます」とだけ残して立ち上がった。できた子である。
ホークスは空いているソファに深く腰掛け、ラッピングの山をあさっては手紙を読みはじめる。こういう時、ホークスは一切表情を出さない。文章ひとつひとつに一喜一憂するでもなく、真剣な眼差しで文面を追うのだった。
言葉を発しなくなったホークスに倣って、自分も仕分けをはじめる。
箱に添えられたメッセージカードを丁寧に抜き取り、ホークスの前に置いていく。ラッピング同様、手紙の種類も多種多様で、彼の幅広い人気が窺えた。それでも赤やオレンジ系のものが多いのが、とても彼らしい。

「あれ」

ふと、ホークスが声を上げた。
黒い洋封筒を手にしているので、差出人不明の怪文でも届いたのだろうか様子を伺うが、どうも違うようである。
口元に手を当ててじっと目を凝らしたかと思えば、わずかに笑みを浮かべた。いつもの揶揄うような笑顔ではなく、目を細めたその表情は微笑みである。珍しいこともあるものだ。
話しかけようとしたところで、常闇くんがカチャカチャと音を立ててティーセットを運んできた。
スペースを空けたローテーブルに静かにカップを置いていくと、ホークスから黒い包みを差し出される。珍しい色合いの包みに、彼は少し怪訝そうな表情を見せた。
この場に不釣り合いな真っ黒なラッピングは、闇夜を具現化したような彼に驚くほど似合っている。受け取った彼を見て、わかってしまった。

「これにするのですか?」

あっけらかんと言う常闇くんは、存外に鈍いらしい。
開けようとする常闇くんを、ホークスは片手で静止する。
紅茶を啜り、笑いながら一言。

「それは今開けない。君が持って帰るものだよ」

ちゃんと見なよ、と黒い指が差す先をじっと見つめた常闇くんは、不意に目を丸くさせた。すぐに鋭い目つきに戻り、普段より幾分目を細めている。長い付き合いではないが、笑っているのではないことはすぐに分かった。
彼はとても真面目でひたむきなヒーローなのだから。

「あ、手作りには気をつけてね〜」

揶揄う師の物言いに、彼は「御意」と静かに頷いた。

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