!名前付き友人ががっつり出ます












18時のチャイムが鳴った。
俯いていた顔を上げると、同じく顔を上げた数人と目が合って笑い合う。一人が伸びをするので、つられて腕を伸ばした。
放課後の学食は人もまばらで、大勢でダラダラするのにもってこいの環境だった。期末試験を控えたわたしたちは、クラスメイトで集まっては勉強をしたりダラダラしたりを満喫していた。
寮だとちょっと集中できない。自室ではもっと集中できない。図書館は逆に集中できない。そんなわたしたちにとって、学食はうってつけの環境なのだった。
人の増え始めるのを見て「ご飯どうする?」と、隣に座っていたナナミが言う。

「混む前に食べちゃおうか」
「あたし今日は寮で済ませちゃおうかな」
「まだ範囲終わってないよー」

そう口々に言うので、お開きの雰囲気が漂う。わたしもさっさと筆記用具をしまい、財布を出した。今日の気分はサバ味噌で、学食はうってつけなのだった。

「ね、より子。あれ」
「うん?」

ナナミが背中をつつく。
視線の方向を追うと、ぞろぞろと集団がやってくるのが見えた。あれは──

「あれ、ヒーロー科じゃない!?」

ナナミの言うように、あれはヒーロー科の一年生だった。
嬉しそうに両肩をポンポン叩いて続ける。

「ねえ、いる?ヒーロー科の。今いる?」
「あれB組だよ」
「なんだあ〜〜!」

自分のことのように残念がって、わたしの両方をポンポン叩く。
残念なことにあの集団はB組だし、本当に残念なことに、ヒーロー科を観察しすぎて、全くの部外者のわたしがクラスメイトの判別ができるようになってしまったのだった。あそこにわたしの想い人はいない。
ナナミがヒーロー科を気にしはじめたのは、体育祭後、常闇くんが普通科を訪れた日からだ。同小で同中だとは聞き出されたものの、肝心なところは知られないだろうとタカを括っていたが、あっという間にバレてしまった。
「そういうんじゃないから」と何度言ったかわからないが、相当わかりやすいのだという。

「えー、いないのかあ。最近全然会ってないよねえ」
「そうね、忙しいだろうからねえ」
「連絡とかしないの?」
「そういうんじゃないから!」

怪訝そうにつまんないと零すが、つまんなくて結構。わたしは同じ学校で生活して、たまに見かけていれば十分なのだから。
列に並んだところで、ナナミがまた肩を叩く。そしてなぜか小声で囁いた。

「ね、より子、より子!あれ!あ、れ!」

彼女の目線の先にはB組。
……と、一緒にいる鳥型の顔。

「ねえ、いるじゃん!やっぱり!」

何の配慮か、彼女は小声のまままくし立てる。
少し離れたところで料理を待つ彼は、クラスメイトだけでなく、B組らしき人たちと談笑しているようだった。肌の黒い男の子。綺麗なミディアムボブの女の子。髪が茨の女の子。名前は知らなくても、見たことはあるヒーローの卵たち。
午後は実技科目だと聞いたことがあるので、ヒーロー科合同での授業があるのかもしれない。

「えー、女子ともしゃべってる。あんま関わらなそうなのに」
「そりゃしゃべるでしょ」

同じヒーロー科なのだから。
とは言うものの、知らない子としゃべったり、スマホ見せあったりしてる様子は精神衛生上よろしいものではない。たしかに、彼は女子と積極的に話す人ではなかったから、今になっていらない気持ちが芽生える。そういんじゃないのに。
ふと目が合ったのは、すぐ横にいた「障子くん」だ。
何気なく顔を上げた彼が、大きな目をこちらに向けたきり動かない。目が合ったというのはわたしの思い違いかもしれないが、あまりにも視線を感じるので試しに小さく会釈をすると、あちらも軽くお辞儀をした。どうやら、わたしのことを認識してくれているらしい。
目線を外したかと思うと、軽く挙げた左手の手のひらをこちらに向けたまま、もう片方の手で常闇くんの肩を叩く。

「えっ」

障子くんに促されるまま、きりっとした瞳がこちらを向いた。真っ直ぐな視線は何度見ても慣れない。
どうしようかとまごついていると、彼は小さく右手を挙げてくれた。反射的に右手を振り返してしまった。
一週間に一回あるかないかの幸福な瞬間。B組の人たちの視線が気になるけど、今だけは許されたい。
料理が出されるのを確認した彼は、また右手を軽く上げて背中を向けた。

「良かったねえ〜気づいてくれて!」
「ちょ、ちょっと!ちょっと待」

言いながら、後ろから脇腹をくすぐってくる。
違うんだってば。そういうんじゃないんだってば。

:::::::20200820
これくらいの関わりがきっと一番たのしい
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -