「うわー!ほんとにホークス!ほんとにホークスだ!えーっウソほんとに!?」
「ハイハーイ、ホントのホントにホークスですよ〜」

ひらひらち手を振ってやると、両手で口元を覆い隠しながらもつぶらな瞳を一層輝かせる。
よくある光景だ。
ファンであろうとなかろうと、好奇の目を向けられるのには慣れている。写真だって撮るしサインだって書く。ファンサも大事な仕事なのは、人気がヒーロー活動に直結するからだ。
よくある光景だが、いつもと異なるのはじっとりとした視線を感じるところだ。

「すごい本物……!ホークス事務所に行ってたって本当だったんだ」
「嘘だと思っていたのか」
「別にそういうんじゃないけど、本当にホークスが来るなんて思わないじゃん」
「矛盾……」

腕組みをして目を瞑る常闇くんは、心なしかむっつりとしている。ふだんから寡黙であるくせに、案外態度に出やすいのかもしれない。
きっかけは、所用で博多から出てきたついでに常闇くんに連絡を取ったことだ。
常闇くんの元気そうな姿を見にきたら、女の子を連れてくるのだから驚いた。

「えっ、カノ──」
「違います」

訊ねる前に否定を被せてきたので、俺の反応は大方予想していたのだろう。
常闇くんの幼なじみだという宮下さんはまさに花の女子高生って感じで、「No.2ヒーローの登場」にめちゃくちゃ興奮している。よくある光景だ。
その横で口を噤む常闇くんの表情は固い。
俺の言葉を聞いていたか目線で窺い、何の反応も返さない彼女を見て安堵のため息。二人をよく知らない俺でも、関係性はありありと見て取れた。

「ホークスに会うと口を滑らせたら、どうしても会いたいと言うので……」

これ以上ないくらい申し訳なさそうに言うが、俺はふだん通りなので大したことじゃない。むしろ常闇くんの青春っぽいとこを見れて楽しんでるくらいだ。

「ほ、ホークス、あの、いっしょに写真撮ってもいいですか……!」
「いいよ〜撮ろ撮ろ」
「やった!ほら常闇もはやくはやく!」
「いや俺は……」

言い淀む常闇くんを無理やり引っ張って、自撮り圏内に押し込める。
三人撮るのに手こずっていた宮下さんに羽根を貸すより前に、“黒影”がスマホを奪った。
「仕方ネエな」などと悪態をつきながら器用にシャッターを押す。「モうイッカイ撮るゾ」とついでの一枚。ずっと思ってたけど、本当に便利で気の利く“個性”だな。
宮下さんは写真を嬉しそうに眺めてから「これからも応援してます!常闇をよろしくお願いします」と言い捨て、何か言いたげな常闇くんが何かを言う前に去っていった。




「騒々しくて申し訳ない」

静かになった途端、妙に神妙に言うので吹き出してしまった。
常闇くんは怪訝そうに目を細める。

「えー、いいじゃん。ていうか常闇くんもスミにおけないねえ」
「は?……あ、いや……宮下は単なる幼なじみと……」
「いやそれにしてもね。実はちょっと嫉妬してたよね」
「嫉妬……!?」

何その信じられないって顔。まさか自覚がないということはないだろうに。……え、ないよね?
俯きがちに考え込むことしばし、何かを悟ったように口を開いた。

「宮下はあまりヒーローに関心を示さないというか、大して興味がないものだと思っていたのですが……あのように世俗的なところがあるとは知らず……」

そう言って項垂れるが、まあつまりは嫉妬だよね。そう思ったが、二度目は口に出さなかった。
多感な青少年をからかうのは楽しいけど、度の過ぎたことはしたくない。健全な成長を見守るのも、大人の役目というわけだ。
しかし少しぐらい、嗾けるくらいはするべきだろう。

「ま、No.2に勝ちたかったらNo.1になるしかないよね」
「ヒーローを目指す以上高き志は持っていますが、俺がNo.1という柄でないことはご存知でしょう」
「いやそういうことじゃなくて」

あまりに真面目な眼差しで応えるものだから、今度はこっちが項垂れてしまった。

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